コラム

プーチンが平然と「モンゴル訪問」を強行し、国際刑事裁判所(ICC)をあざ笑った「真意」

2024年09月10日(火)17時43分

ウクライナ軍事支援を行う西側諸国にとってウクライナはロシアやその他の権威主義国家の侵略を防ぐ橋頭堡である。しかしプーチンを暴発させかねないウクライナの完全勝利は望んでいない。それがクルスク侵攻を西側が静観している最大の理由だ。

中国は言うに及ばず、インドやトルコ、欧州連合(EU)加盟国のハンガリー、オーストリアもロシア産エネルギーを輸入する。ロシア産エネルギーはインドやアラブ首長国連邦(UAE)を経て欧州を含む他の市場に輸出される。

ロシアからのパイプラインによる天然ガス輸入は大幅に減ったものの、液化天然ガス(LNG)の輸入は続く。昨年もロシアはEUにとって第2位のLNG供給国であり、LNG総供給量の約16%がロシア産。フランス、スペイン、ベルギーが大口の輸入国だ。

「オートクラシー(専制政治)株式会社」

世界中で台頭する権威主義に警鐘を鳴らすピュリツァー賞受賞ジャーナリスト、アン・アプルボーム氏は新著『オートクラシー(専制政治)株式会社』の中で「民主主義の終わりはすでに始まっている。全く異なるイデオロギーを持つ国家のネットワークが形成されている」と指摘する。

newsweekjp_20240910050836.jpg

ピュリツァー賞受賞ジャーナリスト、アン・アプルボーム氏(筆者撮影)

「共産主義を標榜する中国、ナショナリズムに冒されたロシア、神権主義のイラン、北朝鮮、その他十数カ国の支配者や支配政党がチェック・アンド・バランスや法の支配、司法の独立、自由なメディアをないがしろにしている」(アプルボーム氏)

「彼らは自由民主主義、人権、法の支配の理念を弱体化させる利害関係者の同盟なのだ。20世紀の独裁国家とは異なる点がいくつかある。21世紀の独裁者の中には欧米の国際金融システムと結託して不正に富を蓄積して権力を握った者もいる」(同)

「独裁世界にも民主世界にも親和性のある国は多くある」

ここ数年、ビジネス界だけでなく政界でも権威主義国家への投資に対する考え方に変化が起きている。アプルボーム氏は筆者の取材に「私は完全な処方箋を持っているわけではない。独裁的な世界にも、民主的な世界にも親和性のある国はたくさんある」という。

「シンガポールは米国の戦略的パートナーだ。と同時にシンガポールの多くの人々が中国とビジネスをしている。私たちはシンガポールと協力して双方の戦略的利益を守る方法を考える。つまり協力する方法を見つけるのだ。北朝鮮は別にして友人になれる中間的な国はたくさんある」

英誌エコノミストの調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの2023年民主主義指数でモンゴルは上位35%にランクされた。

プーチンのモンゴル訪問にはロシアや権威主義国家の体制を守るだけでなく、影響力を行使できる中間に位置する国々を取り込む狙いもある。

2024091724issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年9月17日/24日号(9月10日発売)は「ニュースが分かる ユダヤ超入門」特集。ユダヤ人とは何なのか/なぜ世界に離散したのか/優秀な人材を輩出してきたのはなぜか…ユダヤを知れば世界が分かる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:イスラエル軍の秘密情報部隊が関与か、ヒズ

ワールド

豪8月就業者数は予想上回る、失業率横ばい 労働市場

ワールド

自社製品か確認できずとアイコム、レバノンの無線機爆

ワールド

深セン日本人学校の児童死亡、中国に安全確保強く求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    クローン病と潰瘍性大腸炎...手ごわい炎症性腸疾患に高まる【新たな治療法】の期待
  • 2
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁断の韓国ドラマ」とは?
  • 3
    「ポケットの中の爆弾」が一斉に大量爆発、イスラエルのハイテク攻撃か
  • 4
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 5
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 6
    「トランプ暗殺未遂」容疑者ラウスとクルックス、殺…
  • 7
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 8
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 9
    岸田政権「円高容認」の過ち...日本経済の成長率を高…
  • 10
    米大統領選を左右するかもしれない「ハリスの大笑い」
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 5
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 6
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...視聴した「禁…
  • 7
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 8
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰…
  • 9
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 10
    世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何な…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 8
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 9
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
  • 10
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story