コラム

欧州政治 もはや「極右」の拡大と、権力への接近は止められない...現実路線と過激化の不協和音も

2024年06月12日(水)17時23分

ナチスを思い起こさせるため、ドイツ社会に広範な怒りを巻き起こした。ショルツ首相は「ドイツは出身国や肌の色にかかわらず、すべての市民を保護する」と強調した。AfDの非合法化を求める声が高まり、極右台頭に対する民主主義的価値観の防衛を巡る緊張を浮き彫りにした。

「ナチス親衛隊全員が犯罪者ではない」

AfDのスキャンダルはこれだけではない。欧州議会選の筆頭候補者マクシミリアン・クラフ氏は「ナチス親衛隊(SS)90万人全員が必ずしも犯罪者ではない」と発言した。クラフ氏は第二次大戦中、強制収容所の警備が主な任務だったSSの一部はただの農民だったと唱えた。

AfDの主要メンバー、ビョルン・ヘッケ氏は公の場でナチスのスローガン「すべてをドイツのために!」を使用したとして1万3000ユーロの罰金を科せられた。AfDは欧州議会の会派「アイデンティティーと民主主義」から追放された。

仏「国民連合」や「イタリアの同胞」が過激イメージを脱し、より穏健な姿勢を見せようとする中、ルペン氏は「AfDと席を共にするのはもうやめたい」と絶縁を宣言した。ルペン氏はホロコースト否定論で有罪判決を受けた父親を党から追放し、EU離脱の主張も取り下げている。

欧州委員長「イタリアの同胞」との連携も視野

しかし欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は「国民連合とAfDは名前こそ違えど、ウラジーミル・プーチン露大統領の友人であり、欧州を破壊したいという点では共通している」と述べ、2期目続投に向け「イタリアの同胞」との連携も視野に入れる。

極右・右派ポピュリストが現実路線に方針転換するのは権力に近づき、掌握するための方便に過ぎないのか。それともネオリベラリズムとグローバリゼーションの敗者を救済するためなのか。メローニ首相は良くてルペン氏は悪いのか。筆者には判断がつかない。

しかし右も左も含めて中道勢力が結束して欧州議会の多数派を形成できなければ、脱悪魔化した極右・右派ポピュリストとの協力はより厳格な移民・難民対策も含めて現実的な選択肢になる。

20241126issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story