コラム

ロシアのプーチン大統領は20万人の追加招集で「春の攻勢」準備? 「平和を望むなら戦争に備えよ」NATO高官が警告

2024年01月23日(火)18時23分
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(2019年1月) Sasa Dzambic Photography/Shutterstock

<イギリスやスウェーデンの国防トップ、NATO高官などが、中ロやイラン、北朝鮮などの脅威について相次いで警告を発した>

[ロンドン発]グラント・シャップス英国防相は21日の英BBC放送で「国防費は増えており、国内総生産(GDP)の2%を優に超えている。目標の2.5%は経済状況が許せば達成される」と述べた。国防費を3%に増強しない限り、ナチスドイツの指導者アドルフ・ヒトラーを止められなかった1930年代を繰り返す恐れがあるとの元陸軍トップの警告に答えた。

シャップス国防相はこれに先立つ15日、ロンドンのランカスター・ハウスで「平和の配当の時代は終わった。5年以内にロシアや中国、イラン、北朝鮮を含む複数の脅威に直面する恐れがある。今年は間違いなく分岐点になる。ウクライナにとっては国家の命運が決まる年になるかもしれない」と演説した。

「平和の配当」とは緊張時には国防を最大化すべきだが、平和時には最小化できるという考え方だ。過去に戦争を抑止した核兵器による「相互確証破壊」戦略をイラン革命防衛隊や北朝鮮に当てはめても戦争を止めることはできないとシャップス国防相は指摘する。西側と敵対するロシア、イラン、北朝鮮の「ならず者国家の枢軸」と中国はより緊密な関係にある。

理想主義の時代は冷徹な現実主義の時代に変わった。ウクライナへの25億ポンドの追加支援策に続き、英国は今年前半、陸海空軍の2万人を欧州に派遣し、北大西洋条約機構(NATO)とスウェーデンの大規模演習に参加する。クイーン・エリザベス級の空母やステルス多用途戦闘機F-35B、護衛艦からなる空母打撃群も加わる。

ドイツ連邦軍の秘密シナリオ「同盟防衛2025」

ドイツの大衆紙ビルト(電子版16日付)は独国防省の機密文書をもとにロシアと西側との間に早ければ来年に起こり得る「戦争のシナリオ」を独自ネタとして報じている。それによると、ドイツ軍の秘密シナリオ「同盟防衛2025」は今年2月から始まっている。ロシアは新たな動員で20万人を追加招集する。

ウラジーミル・プーチン露大統領は「春の攻勢」を開始する。西側のウクライナ支援は弱まり、ロシア軍は6月までにウクライナ軍を後退させる。7月にはロシアはNATOに加盟するバルト三国にサイバー攻撃を仕掛け、ロシア系住民を扇動する。9月、ロシア西部とベラルーシで5万人の大規模演習「ザパド2024」を始める。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story