コラム

習近平が「戦狼外交」の態度を「羊」に改めた背景...中国経済は「国民が豊かになる前に衰退し始めた」

2023年11月21日(火)19時00分
バイデン米大統領と習近平国家主席

会談したバイデン米大統領と習近平国家主席(11月15日) Kevin Lamarque-Reuters

<ジョー・バイデン米大統領と会談した中国の習近平国家主席が、「険悪な関係の修復を目指す」姿勢を前面に押し出した理由>

[ロンドン発]ジョー・バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は15日、米西部サンフランシスコ近郊で約4時間にわたり会談した。バイデン氏は「一つの中国」政策は不変だと強調する一方で「一方的な現状変更」に反対し「両岸の相違は平和的手段によって解決されることを期待している」と中国による台湾海峡とその周辺での軍事活動の自制を求めた。

これに対し、習氏は「中国は必然的に統一される」と従来の立場を繰り返した。両首脳は国防政策調整協議や軍事海事協議協定の会合、ハイレベルの軍対軍連絡、戦域司令官間の電話協議を再開したことを歓迎した。米中政府間協議を通じて高度人工知能(AI)システムのリスクに対処し、安全性を向上させる必要性を確認した。気候変動対策でも協力する。

中国共産党系「人民日報」傘下の「環球時報」英語版(16日付)によると、習氏は(1)両国は共同して正しい認識を発展(2)意見の相違を管理(3)互恵関係を促進(4)主要国として責任を共有(5)人の交流を促進――すべきだと求めた。バイデン氏は新冷戦や中国の体制転換、反中同盟の構築、中国との紛争を求めず、台湾独立を支持しないことを確認した。

習氏は「中国と米国のような2つの大国にとって互いに背を向けるという選択肢はない。地球は両国が成功するのに十分な大きさだ」とバイデン氏に緊張緩和を訴えた。

英誌エコノミスト(16日付)は「バイデン、習両氏が話す喜びを再発見したのは良いことだ」と論評した。「11月、中国共産党のプロパガンダは論調を変えた。『新冷戦』を非難する代わりに米中両国が第二次大戦で日本と戦った歴史を共有していることを称え、『フライング・タイガース』として知られる米国義勇軍パイロットの役割を強調した」と伝えている。

高度成長期以降初めて減少に転じた中国経済の世界シェア

フライング・タイガースは日米開戦前だったため、義勇兵として参加した米陸軍航空隊、海軍、海兵隊のパイロットで結成され、国民革命軍(中国国民党)を支援した。大戦後、中国国民党は中国共産党との内戦の末、台湾に逃れる。フライング・タイガースを中国共産党と結びつけるのは「歴史の修正」だが「統一」に固執する中国共産党には格好の宣伝材料だ。

習氏の本音はともかく、首脳会談で「険悪な関係の修復を目指す」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)姿勢を前面に押し出したのはなぜか。中国経済のピークが見えてきたからだ。購買力(PPP)で見た中国の国内総生産(GDP)の世界シェアは1992年、中国の最高指導者、鄧小平が改革・開放の加速を呼びかけた南巡講話以降、急上昇した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story