コラム

イスラエル「世界最強」防空システムと情報機関でも、奇襲を防げなかった理由...もはや「ハマス敗北はない」の声も

2023年10月11日(水)18時58分

今回ハマスに続いてイスラエルを攻撃したヒズボラは1980年代前半の結成以来、イランから強力な支援を受けてきた。イラクのシーア派民兵組織の一部もイランの支援を受け、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」との戦いで重要な役割を果たした。イエメンの反政府勢力フーシ派もイランが支援しているとの見方もある。

ハマスもイランの支援を受け、イスラエルを攻撃してきた。米欧やイスラエルを嫌悪する、こうした組織は長年にわたり、さまざまな形で協力し、資源、戦術、専門知識を共有して訓練を重ね、時に共同作戦を実施してきた。しかし魑魅魍魎の関係は決して「一枚岩」とは言えない。複雑怪奇である。

「イスラエルを破壊することが長期目標だ」

ハマスの奇襲攻撃は5000発以上のロケット弾一斉発射、ブルドーザによるバリケード突破、ハンググライダーや海上ルートの利用など、大掛かりな陸海空統合作戦をイスラエルの情報機関に全く気づかれずにやってのけた。とてもハマス単独でできるとは考えにくい。それが「抵抗の枢軸」の黒幕であるイランの関与疑惑が浮上した背景にある。

ハマスと「抵抗の枢軸」の連携は(1)ロケット弾能力を高めるためイランからの武器や技術の供与(2)シリア内戦などで豊富な戦闘経験を持つヒズボラによる戦闘員の戦術訓練(3)イランからの資金援助(4)イスラエルの防空システムなど国防に関する情報共有(5)政治的支援――などが考えられる。

イスラエルのマイケル・ヘルツォグ駐米大使は米CBSに「ハマスとイランは密接に結びついている。イランはハマスに物質的な支援、資金、武器を提供している。彼らは同じ連合の一員だ。われわれの知る限り、イランが主導する連合が関与していることが疑われる」と指摘している。

イスラエルのギラード・エルダン国連大使も「イランのエブラヒム・ライシ大統領が数週間前にハマス指導者と会談した。彼らがこの地域におけるイランの代理人である軍隊、テロ組織を調整しようとしたことは容易に理解できる。イランが彼らに提供する核の傘によってイスラエルを破壊することが長期目標だからだ」と述べた。

フィナンシャル・タイムズ紙は「イスラエルとイランが敵対する中で、ハマスが完全にイランの支配下に入ることはなかった。近年はカタールから資金を調達し、『イスラム国』からプロパガンダのノウハウを学び、エジプトの情報機関との関係を保ってきた」と指摘する。しかしイランに称賛された奇襲攻撃はハマスとテヘランの結びつきの再評価を促している。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story