コラム

ウクライナは「核攻撃を受けても戦い続ける」が、欧米の「及び腰」にプーチンの勝機

2023年02月21日(火)19時32分
ゼレンスキー大統領とバイデン大統領

ウクライナを訪問して同国のゼレンスキー大統領と会談したバイデン米大統領(キーウ、2月20日) Evan Vucci/Pool via REUTERS

<ウクライナ侵攻1年。同国出身の専門家は「ウクライナは生き残り、ずっと強くなる」と、国内に満ちる希望と戦いの意思を語った>

[ロンドン]ロシアがウクライナに侵攻して24日で1年――。有力シンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の研究員4人がそれぞれの見解を示した。ウクライナフォーラムのオリシア・ルツェビッチ代表=同国西部リビウ出身=は「祖国があれほど激しく戦い、実際に戦場で成功を収めるというのはこれまで考えられなかったことだ」と振り返る。

「ウクライナの統治システムは腐敗した旧ソ連の遺産で、ロシアに比して腐敗は少ないものの効率的ではないとみなされてきた。しかし何とか生き残ることができた。ウクライナの経済界は中小企業も大企業も団結した。ウクライナがなくなれば市場もなくなると考えたからだ。領土防衛のため民間部門から多くの資源を投入した」(ルツェビッチ氏)

「ウクライナ国内ではウクライナは勝てる、ロシアは負けるという空気が優勢だ。ロシアがどれだけ失うか、ウクライナが勝利のためにどれだけ代償を払うかが問題だ」とルツェビッチ氏は言う。「ウクライナは生き残り、ずっと強くなる。国民を支配する感情は将来への希望だ。この戦争は支払う価値のある代償であることを理解し、恐怖心を克服している」

「クリミア半島を取り戻すまでは、たとえ核攻撃を受けても戦うという人が圧倒的に多い。西側が支援を停止してもウクライナは戦うだろう。合意なしに紛争を凍結することを支持する世論は15%。戦争を終わらせるためにロシアに譲歩するような交渉をしても良いと思っている人はわずか11%に過ぎない」とルツェビッチ氏は強調した。

「ロシアが支配していたすべての国の奪還」を目指すプーチン

『モスクワ・ルール ロシアを西側と対立させる原動力』の著者で、上級コンサルティング研究員のキーア・ジャイルズ氏は、ウラジーミル・プーチン露大統領のゴールについて「ロシアの利益を代弁している可能性がある中国のサジェスチョンは興味深い」と指摘する。中国のスパイ気球で米中間の緊迫が一段と高まる中、中国はロシアとの結束を強める。

中国の外交トップ、王毅・共産党政治局員はウクライナ戦争の政治的解決に関する中国の立場を発表する考えを示した。核戦争は決して戦ってはならず、勝つこともできないとも強調した。原子力発電所への攻撃に反対するなど、民間の核施設の安全を確保する努力を促し、生物化学兵器の使用に反対する共同努力を提唱するとも付け加えた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ

ワールド

ロシア大統領、政府と中銀に協調行動要請 インフレ抑
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story