コラム

女性専用サービスを「女性以外」から守れ! 性別変更の簡易化改革をハリポタ作者が批判(スコットランド)

2023年01月21日(土)16時56分

自らも家庭内暴力や性的暴行のサバイバー(生存者)だと公表したローリング氏は「もし自分は女性だと信じたり感じたりしている男性に、手術もホルモン治療もなしに性別変更を認め、女性のトイレや更衣室の扉を開いたら、中に入りたいと望む全ての男を招き入れるのと同じことになる」と唱え、声なき多くの女性から賛同を得たと主張してきた。

日本の国会図書館の調査では、英国も欧州主要国と同じように法的性別変更の年齢要件を成年年齢の18 歳と一致させてきた。04 年の性別認定法では、申請者に配偶者やシビルパートナーがいる場合、性別認定委員会は暫定的な性別認定証書を交付し、完全な性別認定証書を得るためには婚姻やシビルパートナーシップを解消する必要があった。

法的性別変更の要件は厳格過ぎるのか

13 年の同性婚法で、配偶者がいる場合、配偶者が婚姻の継続に同意すれば完全な性別認定証書が交付されるようになった。シビルパートナーがいる場合、両当事者が法的性別変更を申請する必要があった。しかし19 年の制度改正で、相手方の同意があればシビルパートナーシップを継続したまま完全な性別認定証書が交付されるようになった。

英国で性別認定証明書を取得するためには、申請者は、専門医による性別違和の医学的診断と性別変更のために受けた治療の詳細を記載した2つの診断書を提出した上、少なくとも2年間は獲得した性で生活し、死ぬまで獲得した性で生きるつもりであるとの法的な宣言をしなければならない。

こうした要件に対する英国政府のコンサルテーションの結果、トランスジェンダーの64%が性別違和の診断を義務付けるべきではないと答え、80%が治療の詳細を記した診断書提出の撤廃を訴えた。欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会は20年に英国は国際人権基準から遅れを取っているとして5つのクラスターの下から2番目に位置付けている。

英国の手続きは官僚主義的で時間も費用もかかるとの批判を受け、スタージョン氏率いるスコットランド民族党(SNP)と緑の党が過半数を占めるスコットランド議会は昨年12月、申請者は性別違和の診断や治療の医学的証拠を提出しなくて済む改革案を86票対39票の圧倒的多数で承認した。法的に性別を変更できる最低年齢も18歳から16歳に引き下げる。

世論は激しく揺れ動いている。昨年1月に行われた英BBC放送のスコットランド世論調査では57%が法的性別変更をしやすくする改革に賛成し、反対の声はわずか20%だった。しかし獲得した性で暮らす期間を2年から半年に短縮するのは賛成37%、反対44%と賛否が逆転し、最低年齢を18歳から16歳に引き下げるのも賛成31%、反対53%と慎重論が多かった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story