コラム

ドイツが「脱原発」を延期...ドイツにも解けない「脱原発・脱石炭・脱ロシア」の難題

2022年10月18日(火)19時08分
エムスランド原発

ドイツ・エムスランド原発(2022年10月) Stephane Nitschke-Reuters

<独ショルツ首相が「原発3基の稼働延長」を表明。IEAは「50年までのネットゼロ達成には原発を倍増する必要がある」としている>

[ロンドン発]ドイツのオラフ・ショルツ首相は10月17日、ロシアのウクライナ侵攻で悪化したエネルギー危機を緩和するため、ドイツに残る3基の原子力発電所を来年4月中旬まで稼働させるよう関係閣僚に書簡で伝えた。2011年の東日本大震災による福島原発事故で「脱原発」に改めて舵を切ったドイツは今年末までに3基すべてを廃止する計画だった。

ショルツ氏は「イザール2、ネッカーヴェストハイム2、エムスランドの原発3基を今年12月31日以降、来年4月15日まで稼働できるよう法的根拠をつくる」と伝えた。3党連立のショルツ政権内では自由民主党(FDP)が2024年春まで3基を稼働させることを、緑の党はイザール2、ネッカーヴェストハイム2を必要に応じて運転することを求めていた。

原子力はドイツの電力の6%を供給する。経済を最重視するFDP党首クリスティアン・リントナー財務相は「この冬、すべてのエネルギー生産能力を維持することはわが国とその経済にとって極めて重要だ」とシュルツ氏の決定を歓迎した。独エネルギー大手、 RWE は「現在のエネルギー危機において理解できる政治的決定だ」と稼働延長の準備を始めた。

緑の党のシュテフィ・レムケ環境相は「明確になったのは、脱原発は継続されるということだ。ドイツは来年4月15日についに原発を廃止する。寿命の延長や新しい燃料棒の導入もない」とツイートした。しかし緑の党の議会グループは「エムスランドは送電網の安定に必要ない」と「脱原発」に向けて少しでも前進することへのこだわりをにじませた。

欧州向けロシア産天然ガスは84%減

バルト海の海底を通る天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」でロシアと直結するドイツはウクライナ戦争とそれに伴う経済制裁の逆風をまともに受ける。ロシアの侵攻前、ドイツはガス需要の55%をロシアに依存していたが、ノルウェーやオランダの天然ガス、米国やカタールの液化天然ガス(LNG)に切り替え、ロシア依存度を4分の1程度に押し下げた。

露国営ガス大手ガスプロムはベラルーシ、ポーランド経由のヤマルパイプラインの供給も閉めた。ノルドストリーム1はかつて1日最大1億7000万立方メートル(約1760GWh相当)の天然ガスを送り、ノルドストリーム2が承認されていれば供給量は倍増するはずだった。しかし残るノルドストリーム1も「タービン補修」「ガス漏れ」を理由に完全に止められた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story