コラム

「はったりではない」との核の脅しも動員令も、プーチンが「負け戦」を認識した証拠

2022年09月22日(木)10時48分

核兵器使用の可能性は

英国の戦略研究の第一人者でイラク戦争の検証メンバーも務めた英キングス・カレッジ・ロンドンのローレンス・フリードマン名誉教授は最新の有料ブログで「プーチンは上海協力機構(SCO)首脳会議終了後、中国の習近平国家主席とインドのナレンドラ・モディ首相が戦争に懸念を抱いていることを認めざるを得なかった」と指摘している。

プーチン氏はどのように戦争に勝つのか、その道筋を説明しようとした。戦争計画を調整する必要があるのかと問われ、「ドンバスの解放が主な目的だ」と最大目標より最小目標を強調せざるを得なかった。プーチン氏は北東部ハルキウをウクライナ軍の奇襲で失い、ヘルソンも間もなく奪還されると評価しているのかもしれないと同氏は解説する。

「ロシアはさまざまな形や大きさの核兵器を豊富に保有しており、プーチンはそれを使うほど自暴自棄になっているのかもしれない。すでに彼は本当に愚かなことをいくつか行っているので、さらに愚かなことを行わないと誰が断言できるのだろうか。しかしロシアが本当に追い詰められているわけではないことに注意する必要がある」(フリードマン氏)。

追い詰められているのはプーチン氏個人であって、ロシアが国家の存立危機事態に直面しているわけではない。「今のところ、核兵器が所定の位置に移動され、攻撃のために準備されていることを示す証拠はない。ロシアはNATO諸国に対する核兵器使用のシナリオを声高に語っているが、ウクライナに対しては語っていない」とフリードマン氏は指摘する。

習やモディ両氏ら非米欧諸国の首脳が、プーチン氏が自分の面子を保つためだけに核兵器を使用するのを歓迎するとはとても思えない。軍が身動きできなくなる厳しい冬が来る前に、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が反攻の手を緩めることもあり得ない。米欧もプーチン氏の脅しにウクライナ支援の隊列を乱すわけにはいくまい。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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