コラム

「クレムリンの殺し屋」プーチンに相応しい最期は近付いている...MI6などが分析

2022年07月23日(土)17時10分
プーチン大統領

プーチンは国内で追い詰められつつある(2022年4月) Maxim Shemetov-REUTERS

<戦前の分析でも戦場でも大きな過ちを犯したプーチン。健康状態は報じられるほど悪くない可能性もあるが、国内で追い詰められつつあるのは確かだ>

[ロンドン発]海外での情報活動を行う英秘密情報局(MI6)のリチャード・ムーア長官は21日、米西部コロラド州で開かれた米シンクタンク、アスペン研究所の安全保障フォーラムで講演し、「戦争はまだ終わっていないが、スウェーデンが200年に及ぶ中立を捨て北大西洋条約機構(NATO)に加盟するなど、ロシアは戦略的な誤りを犯した」と語った。

ムーア氏はウラジーミル・プーチン露大統領にはウクライナに侵攻する際、3つの目的があったと振り返った。「一つはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を排除すること。2つ目は首都キーウを支配すること。次にNATOに不和の種をまくことだった」。しかしプーチン氏は緒戦で約1万5000人を無駄死にさせ、3つの目標だけでなく、面目も完全に失った。

「ロシア軍はここ数週間、数カ月間で少しずつ前進しているが、それは微々たるものだ。前進したのは数マイルで、占領した街は破壊され尽くしている。ロシアは力尽きようとしている。今後数週間、ますます人員や物資の供給が困難になり、何らかの形で休止せざるを得なくなる。士気が高く、良い武器を供給されたウクライナ側には反撃の機会が訪れる」

ムーア氏は「ウクライナがロシアに対して反撃する能力を示すことが重要だ。それが軍の高い士気を維持するとともに、ウクライナは勝てるという強いメッセージを欧州に送ることになる」と述べた。米ファンタジーTVドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』の『冬来たる』というエピソードを引いて「これからかなり厳しい冬に入る」と指摘した。

「彼が深刻な病に苦しんでいるという証拠は何一つない」

冬になれば欧州でロシア産天然ガスの需要は増し、プーチン氏はロシア依存度の高い欧州諸国に揺さぶりをかけやすくなる。さらにプーチン氏の重病説について米CIA(中央情報局)のウィリアム・バーンズ長官と同じように、ムーア氏も「彼が深刻な病に苦しんでいるという証拠は何一つない」と断言した。

「私たちはウクライナ侵攻などプーチン氏の計画を事前に公表してきたことからも分かるようにクレムリンの動きを追跡してきた」と強調し「ロシアはウクライナのナショナリズムと侵攻した際に反撃される程度を完全に過小評価していた。正しい情報が得られていなかったことに加え、ロシアの情報機関の仕事は権力者に真実を伝えることではなかった」と語った。

ウクライナ侵攻後、ロシアの外交官として活動していた情報機関メンバーの約半分に当たる約400人が欧州から追放され、ジャーナリストを装ったロシアの協力者も次々と逮捕されている。このため、欧州におけるロシアの情報収集網はズタズタに引き裂かれ、ウクライナ戦争を巡る欧州の動きが正確に把握できなくなっているという。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story