コラム

「70年にわたる平和維持の実績」 韓国の武器輸出が、ウクライナ戦争で一気に飛躍

2022年07月30日(土)15時30分

ウクライナが同国南部で反攻に転じるきっかけを作った米M142高機動ロケット砲システム「ハイマース」(射程約70キロメートル)の威力を目の当たりにしたポーランドはハイマース500門の追加調達をアメリカに打診し、韓国製の多連装ロケットランチャー、K239の調達も検討中だ。トルコ製の無人戦闘航空機バイラクタル TB2、24機も発注している。

K9自走榴弾砲は2026年からポーランドで現地生産される。「今後数年の間に、『クラブ』とK9自走榴弾砲の設計から最良のものを選択し、ポーランド、韓国両国にとって統一された自走榴弾砲になるようにしたい」とブワシュチャク氏は強調した。ポーランドは今後5年間で兵員を2倍以上の30万人に増やす。単純に考えても装備も倍増する必要がある。

ポーランドと韓国の合意の背景

ロシアのウクライナ侵攻で冷戦後の欧州の安全保障は完全に崩れた。核戦争にエスカレートするリスクを最小限にするためには、まず通常戦力でロシアの領土的野心を抑え込まなければならない。ポーランドは米欧防衛産業の生産力と供給力を補完するため、韓国と戦車、大砲、戦闘機、現地生産、技術移転、次世代システムに関する協力関係を築き始めた。

朝鮮戦争を経て米韓相互防衛条約を締結した韓国の兵器には、旧ソ連圏の北大西洋条約機構(NATO)加盟国よりも高い米軍との相互運用性が確立されている。ロシアのウクライナ侵攻後の短期間に、最高品質の兵器をポーランドの軍需産業と広範囲に協力しながら提供できるのは韓国の防衛産業をおいて他に見当たらなかったことが合意の背景にある。

総額で1兆6000億円を超える合意は、ウクライナへの兵器供与で生じた空白を速やかに埋め、ポーランド軍の近代化プロセスを加速させる「第1ステージ」と、兵器をポーランドで製造するとともに、第1ステージで輸入された韓国製の装備もポーランド軍仕様にアップグレードする「第2ステージ」に分かれている。

【第1ステージ】
K2戦車180両(年内に納入開始)
K9自走榴弾砲48門(年内に納入開始。最初からポーランド軍仕様で製造)
12機のFA-50 (23年半ばに納入)

【第2ステージ】
K2戦車820両(ポーランドで製造)
K9自走榴弾砲600門(24年に納入開始。26年ポーランドに生産移管)
36機のFA-50(26年にポーランドにサービスセンターを建設)

武器輸出大国への転換を主導した文前大統領

アジア太平洋の政治・安保専門オンライン誌「ザ・ディプロマット」のイ・ウンウ記者は今年3月、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が残した遺産として「主要兵器の改修、兵士の生活向上、武器輸出大国への転換を主導した」と評価している。文政権下、韓国の国防予算は毎年平均7%ずつ増え、22年には440億ドル(約5兆8400億円)に達した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story