コラム

死を覚悟した男と、「暗い絵」を描く子供たち...ウクライナ西部で見た「平和」の現実

2022年06月08日(水)12時04分

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避難所を案内してくれたアンドリー・ボビラさん(筆者撮影)


「暗い絵を描く子供たちもいる」

近くのユニセフ(国連児童基金)の仮設テント内には避難所の子供たちが作った雲と雨の飾り付けや、祖国の繁栄と健康を願う人形、大きな絵が飾られていた。幼児用品の提供や子供たちへの教育支援を行っている。女性ボランティアのオレーシャ・ダニシェンコさん(39)自身、キーウから逃れてきた避難者だ。その気になれば仕事はすぐに見つかるという。

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ユニセフの仮設テントでは子供がボードゲームをしていた(筆者撮影)

「地域の子供たちを含めて100人以上がこのテントにやって来ます。みんなで大きなライオンやウクライナの絵を描いたり、ボードゲームやバレーボールを楽しんだりしています。しかし幼心に戦争体験が刻み込まれ、暗い絵を描く子供たちもいます。そうした場合、すぐに心理療法士に診てもらって心の支援をしています」とダニシェンコさんは語る。

避難所からの帰り、ベンチに座って休んでいた3人連れの兵士に出会った。うち1人は戦争が始まる前はロンドンで暮らしていた。「20年前に祖国で2年間、徴兵された経験がある。演習を終え、リビウに来たところだ。命じられれば東部戦線に戻るだろう。ロシア軍の砲撃が正確でないから、まだ助かっている。正確になれば大ごとだ。写真はダメだよ」と話す。

午後8時すぎ、リビウ中心部に空襲警報が鳴り響いた。しかし、みんな何事もなかったように平然と歩いている。「平和」になったというより「戦争」が日常化したと表現した方が正しいのかもしれない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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