コラム

英国に辿り着いた難民が、移送されることになった「世界で最も安全な国」とは?

2022年04月16日(土)10時09分

逆に高くつく難民申請手続きのオフショア化

難民申請手続きのオフショア化はオーストラリアの例がある。10年12月、難民89人と乗組員3人を乗せた漁船がクリスマス島の岩に衝突して沈没し、子供15人を含む50人が死亡する大惨事が起きた。これを受けて12~13年にかけ、オーストラリアではパプアニューギニアのマヌス島やナウルで難民申請者を受け入れ、手続きが行われるようになった。

HRWによると、オフショア政策が始まって以来、12人が死亡。男性も女性も子供も非人道的な扱いに苦しみ、医療を受けられないため、長年にわたる収容は自殺と自傷行為を蔓延させた。オーストラリア政府は今年、収容者239人に対して8億1200万豪ドル(760億円)の予算を組んだ。1人当たりの費用はなんと340万豪ドル(3億1800万円)にのぼる。

シドニーのニューサウスウェールズ大学の調査でもマヌス島やナウルで収容する1人当たりの費用は年間340万豪ドル。オーストラリアで収容すると36万2千豪ドル(3385万円)、手続き中に地域社会の中で暮らすと4429豪ドル(41万円)で済むという。「オフショア化は残酷で効果がないだけでなく、違法である恐れが非常に高い」(HRW)

密航者を抑止するためのルワンダ移送は命を賭して祖国を逃れてきた難民を不法移民扱いすることを意味する。パーティー疑惑で窮地に立つジョンソン氏は政党支持率で最大野党・労働党に逆転され、5月の統一地方選での苦戦は必至。ジョンソン氏はウクライナ支援や密航者対策をパーティー疑惑の隠れ蓑に使っているのはもはや誰の目にも明らかだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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