コラム

英国に辿り着いた難民が、移送されることになった「世界で最も安全な国」とは?

2022年04月16日(土)10時09分

難民の収容費用は1日470万ポンド(7億7640万円)。密航者を減らす切り札として浮上したのが密航者のルワンダ移送だ。イギリスへの密航者は6500キロメートル離れたルワンダに送られ、そこで難民申請手続きを行う。イギリスはルワンダの経済発展のため1億2千万ポンド(198億円)を投資するとともに宿泊施設など発生するすべての実費を負担する。

正式名称は英・ルワンダ移民・経済開発パートナーシップ。ルワンダでは1994年にフツ族の過激派がわずか100日で少数民族のツチ族や政敵約80万人を虐殺した。しかし今はすべてが整然としていて安全で、かつサービスが行き届き、効率的に機能している「アフリカのスイス」のように見える。コロナワクチンの2回接種率も60%を上回るほどだ。

禁錮25年の有罪判決を受けた『ホテル・ルワンダ』のモデル

しかし大虐殺で1200人の命を救い、米映画『ホテル・ルワンダ』のモデルになったポール・ルセサバギナ氏(67)は昨年9月、反政府グループを支援した罪で禁錮25年の有罪判決を受けた。2017年大統領選でポール・カガメ大統領が99%の得票率で三選を果たしたが、「ルワンダは独裁国家で言論の自由も民主主義もない」とルセサバギナ氏の家族は批判する。

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)によると、ルワンダの治安部隊は18年、コンゴからの難民が食料配給の削減に抗議した際、少なくとも12人を射殺。その後、60人以上を国家に敵対する国際世論を作り出すことを意図した虚偽情報の流布や反乱罪で起訴した。イギリス自身、昨年だけでルワンダから逃れてきた4人の難民申請を認めている。

ルワンダではカガメ政権を批判したユーチューバーたちが次々と摘発されている。HRWは「ルワンダは超法規的処刑、拘留中の不審死、不法または恣意的な拘留、拷問、特に批判者や反体制派を標的とした虐待的訴追の実績があることで知られている」と指摘する。英難民評議会のエンヴェル・ソロモンCEO(最高経営責任者)もこう怒りをぶちまける。

「英仏海峡を渡って小型ボートで到着する男性、女性、子供の3分の2は戦争や迫害によって祖国を追われた人たちだ。難民申請者に海外で手続きさせることは問題の解決にはならない。より多くの人の苦痛と混乱を招くだけであり、逆に年間推定14億ポンド(2312億円)という莫大なコストを発生させる。英政府の残酷で意地の悪い決定に愕然としている」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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