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プーチンに戦争を決断させた「原油価格のロジック」と、その酷すぎる「計算違い」
ガスプロムの石油精製施設 Alexey Malgavko-REUTERS
<ロシアの命運を左右する「資源」について見誤ったプーチンが、世界規模の「狂乱物価」を招き、在外邦人の年金生活者には「地獄」が訪れる>
[ロンドン発]ロシア軍によるウクライナ全面侵攻で原油価格が暴騰する中、イギリスではガソリンやディーゼル燃料(軽油)の盗難を防ぐため、ガソリンや軽油を抜き取りにくい駐車方法や、カギ付きのフィラーキャップ、警報システム、CCTV(防犯カメラ)の設置を呼びかけている。
「タブロイド」と呼ばれる英大衆紙デーリー・メールはスーパーマーケットで大量に購入した食用油を乗用車に補給する嘘か本当かも分からないニュースを動画付きで報じている。無鉛ガソリンと軽油の価格は1リットル当たりそれぞれ1.679ポンド(約263円)と1.779ポンド(約278円)。軽油は2ポンド(約313円)を突破しているところもある。
レギュラー160~170円台、軽油130~160円台の日本に比べかなり高い。イギリスでは2020年6月時点で無鉛ガソリン1.071ポンド(約168円)、軽油1.12ポンド(約175円)だった。天然ガス価格は1サーム(10万英熱量)当たり侵攻前の1.65ポンド(2月16日)から一気に5倍近い8ポンド(3月7日)に跳ね上がり、2.39ポンド(約374円)に落ち着いた。
原油高騰だけでなく天然ガス価格も乱高下し、1970年代の石油危機の到来を予感させる。筆者の周りにも「エネルギー代が上がりすぎてヒーターを切っている」「寒さをしのぐため湯たんぽを抱いて寝ている」と打ち明ける独り暮らしの女性がいる。ガス代と電気代は今年4月から年693ポンド(約11万円)値上げされ、1971ポンド(約31万円)になる。
英中銀は政策金利を0.5%から0.75%に引き上げ
イギリスの消費者専門家は「10月にはガス代と電気代は3000ポンド(約47万円)に達する恐れがある」と英紙のインタビューで警鐘を鳴らしている。消費者物価が4月には8%前後に上昇する見通しとなり、英中銀・イングランド銀行は3月17日、政策金利を0.5%から0.75%に引き上げた。昨年の0.1%から3会合連続の利上げである。
「ロシアのいわれのなき侵攻とウクライナに与えた苦痛を非難する。侵攻によりエネルギー価格や食料品価格がさらに大きく上昇した」とイングランド銀行は指摘する。一方、日銀の黒田東彦総裁は18日、緩和を続ける考えを強調した。金利差が開けば対英ポンドでも円安に振れ、筆者のような在英邦人は円安とインフレのダブルパンチに見舞われる恐れがある。
中でも深刻なのは日本の年金をあてにしている在英の高齢者だ。日本円で給与をもらっている駐在員世帯の生活も苦しくなるのは必至だろう。今のところインフレとは無縁の日本だが、日銀がこのまま緩和を続けると、ある時点で必ずインフレに振れる。年を取り、若い頃のように働けなくなってからのインフレは年金の目減りを意味し、まさに「死刑宣告」に等しい。