コラム

「渡航禁止の解除を」WHO勧告を無視する日本とオミクロン株をまん延させたイギリスの違い

2022年01月21日(金)20時43分

在宅勤務で閑古鳥が鳴いていた都心部のパブやレストラン、ナイトクラブ、若者たちは規制撤廃を大歓迎するものの、2年近くコロナ危機と闘い続けてきた最前線の医療現場からは不満が噴出する。英看護協会(RCN)のパット・カレン事務局長は怒りを爆発させる。

「ジョンソン首相は規制を緩和する決定を下したことで党内造反議員からの圧力は軽減されるかもしれないが、英国民医療サービス(NHS)にかかる重圧を減らすことはできない。これだけ不安定な状況が続いているのにワクチンだけに頼るわけにはいかない。NHSではワクチンを接種していない何千人もの看護師が解雇されようとしている」

「閣僚は慎重な姿勢で臨むべきだ。政府は自分たちの政治的な都合のために市民に誤ったシグナルを送ったことを後悔することになるだろう。多くの患者がまだ入院している最中、感染の波が終わったと結論付けるのは早計過ぎる」。昨年12月にプランBが導入された時、7373人の患者が入院していた。最新データで入院患者は1万8979人と2倍以上なのだ。そして1日の死者は連日、優に300人を超える。

英医師会のチャンド・ナガプール評議会会長も「感染や症状のレベルが依然として高く、NHSが深刻なプレッシャーにさらされている中で、ジョンソン首相の決定は誤った安心感を与える危険性がある。この決定はデータに基づいていない」と指摘する。

一貫して集団免疫を目指してきたイギリス

「病院が手術を中止、病院を運営するトラストが重大事態を宣言し、救急車の遅延が公共の安全を脅かしているのが現状だ。600万人という記録的な患者が滞留している。こんな状況ですべての規制を撤廃すれば感染者の数が再び増加に転じ、入院率の上昇は避けられない。医療従事者の欠勤率や長期入院患者の数も増えるだろう」

筆者の友人や知人もオミクロン株に感染したが、いずれも普通の風邪のように軽症だった。イギリスは一貫してワクチンや自然感染による免疫獲得者を増やし、感染防止の壁を作る集団免疫の獲得を目指してきた。しかし高齢者、免疫不全の患者は3回目のワクチンを接種しても重症化する症例が報告されている。

患者の命を一人でも救おうとする日本の医療は死者を1万8461人に抑えている。全体を俯瞰するイギリスの医療とは相容れない。どちらが良いかはそれぞれの国民性によると言うほかない。岸田首相はハイリスクグループから3回目のワクチン接種を急ぐべきだ。それまでは厳格な水際対策に対して国際社会から批判を浴びても辛抱するしか手立てがない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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