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ロシアのウクライナ侵攻6つのシナリオ
プーチン氏の本気度
英紙フィナンシャル・タイムズによると、14年のクリミア侵攻以降、米欧から科された制裁に対抗するため、ロシア中央銀行の外貨準備は15年後半から70%以上増加し、現在では6200億ドル以上に達する。原油・天然ガス価格の高騰によりロシアは政府系ファンド「国民福祉基金」に1900億ドルの資金を投入、24年には3千億ドルを超えると予測する。
政府債務は国内総生産(GDP)の約20%まで抑えられ、ロシア国債を保有する外国人投資家の割合も全体の5分の1にまで減少。企業の海外債務は800億ドルで、14年当時の1500億ドルの約半分まで減った。コロナ危機の供給制約と需要回復が原油・天然ガス価格を押し上げ、プーチン氏を強気にさせているのは間違いない。
ロシアの天然ガスが止まれば欧州は冬を越せない。天然ガスは二酸化炭素排出量も少なく、蓄電池代わりの水素の原料にもなる。欧州にはアメリカと違ってプーチン氏に強く出られない理由があるのだ。しかも欧米の交渉の切り札はロシアからバルト海の海底を通ってドイツに天然ガスを運ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」だ。
米英は「ノルドストリーム2の計画を進めることは問題だ」とドイツに迫るが、社会民主党(SPD)出身のゲアハルト・シュレーダー元独首相はプーチン氏と親密で、ノルドストリーム株主委員会やロシア最大の国営石油会社ロスネフチ役員会の会長を務める。SPD出身のオラフ・ショルツ首相も、対露宥和外交を強硬姿勢に転換する気配は全くない。
割れる欧州
ウクライナに対戦車兵器を供与するイギリスの軍用機はドイツ領空を飛べず、迂回ルートを取らざるを得なかった。ドイツ政府は報道陣にロシアを国際金融システムから切り離す制裁は考えていないと説明し、アメリカを激怒させた。ドイツ政権内部では、対露強硬派の緑の党共同党首アンナレーナ・ベーアボック外相とショルツ氏の対立も取り沙汰される。
14年、ロシアがウクライナからクリミアを奪った時、ウクライナ軍は一発も撃たず半島を明け渡した。プーチン氏に対する最大の抑止力は、アメリカから25億ドルもの軍事支援を受けたウクライナ軍がどこまで本気でロシア軍の侵攻に抵抗できるかだ。米欧からの支援は二の次だ。
今年11月に中間選挙を控えるジョー・バイデン米大統領は無様な撤退劇を世界中にさらしたアフガニスタンの二の舞は避けたい。かと言って同盟国でもないウクライナに米兵を送ることに有権者の理解を得られるのだろうか。どの国もコロナからの回復で手一杯なのだ。危険なギャンブルであっても、そこにプーチン氏が付け込むスキがある。