コラム

「ロンドンはオミクロン株の首都になる」対策強化よりクリスマスを優先させた英首相のギャンブル

2021年12月22日(水)18時11分

ピーター・イングリッシュ前英医師会(BMA)公衆衛生医学委員会委員長も「NHSをはじめ多くの公共・民間サービスが新年1月に逼迫するのはもはや避けられまい。 今から行動を起こせば被害を減らすことができるが、完全に防ぐには遅すぎる。一人ひとりが 他人との接触を最小限にし、屋内イベントには可能な限り参加しないことだ」という。

英政府の非常時科学諮問委員会(SAGE)は「プランBより厳しい規制がとられない限り、イングランドでは1日の新規入院患者が3千人を上回る恐れがある」と警鐘を鳴らしている。しかしイギリス全体の1日の新規感染者数は今のところ9万人余で頭打ちになり、新規入院患者も800人台で横ばいになっている。

オミクロン株はロンドンで劇的に増えているものの、イギリス全体で平均すれば指数関数的には増えていないように見える。ジョンソン首相は「平均の罠」を巧みに利用して国民や飲食店やホテルなどホスピタリティー業界が反対するクリスマス・ロックダウン(都市封鎖)の最悪シナリオを回避することを優先したと言えるだろう。

世界から締め出される恐れも

リシ・スナク英財務相は先手を打ってホスピタリティーとレジャー産業に10億ポンド、日本円にして約1500億円の財政支援を約束した。一方、最大野党・労働党のサディク・カーン・ロンドン市長は18日に「重大事態」を宣言して警戒を強める。移民が多いロンドンではワクチンの接種率が50%を下回る地域もあるからだ。

オミクロン株のリスクは人によって大きく異なる。若くて健康な人には風邪と同じでも、高齢者や基礎疾患を抱えるハイリスクグループ、ワクチン未接種者には命に関わるリスクになりかねないのだ。すでにイングランドでは129人が入院し、14人が死亡している。感染者が増えれば必然的に入院患者、重症患者、死者も拡大していく。

英公衆衛生トップは非公式会合で「このままオミクロン株の感染を放置すれば、ロンドンはオミクロン株の首都になる」と強い口調で警告を発した。フランスはイギリスからの渡航を制限したが、感染爆発を防げなければイギリスは世界から締め出されてしまう恐れがある。自らの政治生命を延ばすためのジョンソン首相の賭けは極めて危険と言わざるを得まい。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独GDP改定値、第3四半期は前期比+0.1% 速報

ビジネス

独総合PMI、11月は2月以来の低水準 サービスが

ビジネス

仏総合PMI、11月は44.8に低下 新規受注が大

ビジネス

印財閥アダニ、資金調達に支障も 会長起訴で投資家の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story