コラム

COP26合意「赤字国債ならぬ『緑字国債』発行に期待」──和製ソロス 浅井將雄氏が語る

2021年11月18日(木)20時22分

──気候変動対策では欧州がリードする場面が目立ちますね

「COP自体、1回目がベルリンで開かれるなど、欧州主体にCOPが議論されてきました。欧州連合(EU)が10月12日、使途を環境対策に限定した15年物のグリーンボンド(環境債)を初めて発行し、過去最大規模の120億ユーロ(約1兆5600億円)を調達しました。欧州では、ESGならびに温室効果ガスの排出についてリスクモニターとして銀行にウオッチさせる仕組みがすでに21年にスタートしています」

「今回のイギリスの方針はそれを大きく前進させる仕組みになってくると考えています。運用のポートフォリオの中でネットゼロを打ち出してくるというのはイングランド銀行と英財務省が積極的に意見交換した結果でしょう。こうした動きに対して、アメリカが遅れを取っている部分は多分にあります」

「欧州が主導する中でEUから離脱せざるを得なくなったイギリスが戦略的に金融セクターの先進性を打ち出した政策です。今後、東京、シンガポールといった金融都市も参考にしてくるはずです。シティーのような枠組みを打ち出してくるのではないでしょうか」

──ニューヨークからはどんな反応が出てくるのでしょう

「国連が管理する環境問題の中でアメリカの共和党と民主党の間には大きなアプローチの違いがあります。ドナルド・トランプ前米大統領時代にアメリカはパリ協定から離脱しました。共和党政権下で、アメリカは気候変動対策で大きな遅れを取りました。1997年に京都で開かれたCOP3で京都議定書が採択されながら、アメリカはその後、離脱したという事実も歴史的にあります」

「アメリカではニューヨークをネットゼロの金融都市にしようという構想も発想もされていない段階です。政治的な功績という面でボリス・ジョンソン英首相やスナク財務相に大きな加点があったと思います。これによりスナク氏の首相への道が開けたかもしれないという声もあるぐらい大きなステップでした。大きな存在感を世界に示せたのではないでしょうか」

──EUがコロナ復興基金からグリーンボンドを出したことをどう見ていますか

「今はまだ最初の段階です。われわれのポートフォリオの中でもグリーンボンドを入れることによって温室効果ガスのネットの排出を抑えることができます。世界的に非常に大きな金融機関がパリ協定の2度未満を達成するため30年までに10年比で温室効果ガスの25%の削減をしていこうと欧米だけでなく、日本も含めてESGのインテグレーションにアプローチしています。1.5度を目指すことを決意したCOP26によって45%に引き上げられることになるでしょう」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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