コラム

COP26合意「赤字国債ならぬ『緑字国債』発行に期待」──和製ソロス 浅井將雄氏が語る

2021年11月18日(木)20時22分

「グリーンボンドをポートフォリオの中に入れると温室効果ガスの排出がないアセットになるので、一番手っ取り早い。もちろんグリーンウオッシュ(温暖化対策に取り組んでいるように見せかけること、ごまかし)の問題もありますが、EUが出すグリーンボンドであればグリーンウオッシュの恐れが低いということで各金融機関が我先にと購入し、11倍という倍率になり、1350億ユーロ(約17兆5300億円)もの需要があったわけです」

「よく言われているようにESGバブルに近い現象だとは思いますが、EUが現在、世界最大の発行体であることは間違いありません。日本も含めて各国でグリーンボンドを発行していくことが検討されています。日本では『赤字国債』と言われていますが、近い将来、使途を環境対策に限定した『緑字国債』という言葉が出てくるのではないかなと個人的には期待しています」

「緑字国債は環境インフラの整備に使われるでしょう。国債発行の使途が明確になり、環境に好影響を与えることが明らかになれば次世代への大きな橋渡しになるのではないでしょうか。EUのグリーンボンドはそれを意図的に巨額にやったということで評価すべき第一歩だと思います」

──「このままでは国家財政は破綻する」と題した「文藝春秋」11月号への寄稿で矢野康治財務事務次官は「昨年、脱炭素技術の研究・開発基金を1兆円から2兆円にせよという菅前首相に対して、私が『2兆円にするにしても、赤字国債によってではなく、地球温暖化対策税を充てるべき』と食い下がろうとしたところ、厳しくお叱りを受け一蹴されたと新聞に書かれたことがありました。あれは実際に起きた事実です」と告白しましたね

「緑字国債の発行で1兆円、2兆円、3兆円を調達できれば、確かに大きな進展になるでしょう。しかし矢野次官が提起した日本の財政の問題というのは大いに議論をすべき問題です。いろいろな意見はあると思いますが、私は、現代貨幣理論(MMT)なるものは上手くいかないと考えています」

「日本の成長を阻害している最大の弱点はもはや間違いなく財政にあります。その意味で矢野次官の勇気ある発言については私自身、非常に評価しています。日本が次世代に手渡すのは環境なのか、誰にも返せないような債務なのか。誰が責任を取って、誰が行動に移すのか。正直言って財政が最も深刻な問題です」

「巨額の国家債務が、次世代の日本をジリ貧にさせていく恐れがあります。ジリ貧で済めば良いのですが、日本は世界恐慌の要因になりかねないほどの債務を抱えていることを現政権ならびに将来の政権にも認識してもらって、いち早く財政について何らかのコミットを残すことこそが日本が先進7カ国(G7)として生き残っていく大きな国家戦略だと思います」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

対ロ軍事支援行った企業、ウクライナ復興から排除すべ

ワールド

米新学期商戦、今年の支出は減少か 関税などで予算圧

ビジネス

テマセク、欧州株を有望視 バリュエーション低下で投

ビジネス

イタリア鉱工業生産、5月は前月比0.7%減に反転 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story