コラム

「激痛のあまり『殺して下さい』と口走っていた」医療アクセス絞るオランダで感じた恐怖【コロナ緊急連載】

2021年01月22日(金)14時20分

自宅近くの薬局に医師からデジタル処方箋が送られてくるので、夫が薬局で受け取ることができた。血栓を防ぐ注射も自分でしなければならなかった。

日本にはびこる変な安心感

「日本ではコロナはインフルエンザと変わらないという人がまだいますが、インフルエンザとマイコプラズマ肺炎を併発した私の経験から言ってもコロナを発症した時の痛みは比較になりません。回復する道のりも大変です。治っても誰も警戒して会ってくれない。精神的にきついです」

今年1月に入ってからも37.5度前後の微熱が続き、自宅から酸素ボンベが最終的に回収されたのは同月18日になってからだ。

日本では検査の実施件数が少なく、感染の広がりが把握できないため、変な安心感が広がっている。「オランダでは夫の両親も、義理の妹夫婦も感染しています。欧州レベルの感染爆発が日本で起きたら、どんなことになるのか想像しただけでもゾッとします」と大崎さんは語る。

「オランダでも日本でも飲食店が潰れていくのを目の当たりにすると、コロナ規制が厳し過ぎると言いたくなる気持ちは分かります。どうしてコロナ病床が足りなくなるのか、死ぬ思いをして入院できても1日で退院させられた私には医療の逼迫を実感できますが、他の人が実感できないのも無理ないのかもしれません」

病床は指数関数で増やせない

コロナの感染は指数関数的に広がるのに対して、コロナ病床数は指数関数的に増やすことは不可能だ。だから医療崩壊を防ぐことが最優先事項となる。

しかし、そのために欧州型のロックダウン(都市封鎖)に近い対策をとれば飲食店やホテルなどサービス産業への影響は計り知れず、失業者や自殺者が増え、財政支援も膨れ上がる。

コロナを巡るステークホルダー(利害関係者)は多岐にわたる。「事実」は一つだが、それぞれの関係者にとって見える「真実」は大きく異なる。

その利害をどう「見える化」して国民に伝え、政策決定の理解を得ることができるのか。政治・行政・科学・メディア・市民団体が一体となって知恵を絞らなければなるまい。でも、その前に、いつでもどこでも病院で診てもらえる日本では当たり前の有り難みをもう一度、噛み締めてみる必要がある。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story