コラム

新型コロナ後、中国の権威主義が勝利し、欧米の自由民主主義が敗者になる

2020年04月14日(火)12時00分


中国は死者を米国、イタリア、スペイン、フランス、英国、ベルギーよりはるかに低く抑え込んだ。このパンデミックが去ったあと市民の目には中国が勝者で、欧米諸国は敗者のように映ったとしても何の不思議もない。

【第5の教訓】パニックを煽る逆転の危機管理

経済危機、難民危機、テロの最大の敵は恐怖によるパニックである。テロでは人々が恐怖を感じて外出を自粛した場合、テロリストは目標を達成したことになる。世界金融危機でも買い控えなど消費者の行動変化は危機のコストを増大させる。

このため政治指導者は「落ち着いて」「普段通り生活しよう」「誇張するな」というメッセージを発信する。今回、政府はこれまでの危機と違って人々を怯えさせ自宅に留まるよう行動変容を迫っている。

【第6の教訓】世代対立の激化

コロナ危機は世代間の力学に強い影響を与えるだろう。地球温暖化がもたらすリスクについて、若者世代は大人世代が利己的で人類の未来を真剣に考えていないと非難する。

今回のパンデミックではこの力学が逆転する。高齢者はこのウイルスにはるかに脆弱であり、若者世代の無軌道な行動が自分たちの命を脅かしていると感じている。危機が長期化すると世代対立は激化する。

【第7の教訓】命と経済の選択

ある時点で、政府は経済を犠牲にしてパンデミックを抑えるか、経済を救うためある程度、人の命を代償にするか選択せざるを得なくなる。

クラステフ氏は「コロナ危機は、反グローバリストの恐れを正当化した。閉鎖された空港と自己隔離する個人はグローバリゼーションを完全に破壊した跡の"グラウンドゼロ"のように見える」と指摘する。

kimura2.jpg
急いで拡張された遺体安置所  (筆者撮影)

自由や国境を開くというEUの理念は新型コロナウイルスの巨大津波に跡形もなくのみ込まれた。恐怖を煽ることができても解決策を持たないポピュリスト政治家の影響力も弱まる可能性はある。

パンデミック後にやって来るのは、ビッグデータを使った市民監視によって強化された中国型国家統制権威主義の時代なのかもしれない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story