コラム

「合意なき離脱」で英国を空中分解させるジョンソン首相 史上最短命首相の運命か

2019年08月02日(金)16時30分

フランソワ氏は、強硬離脱を煽りまくっている保守系紙デーリー・テレグラフのポッドキャストに「ジョンソン首相は、離脱協定書は死んだと断言した。われわれはその言葉を信じる」と約60人が現在の離脱協定書には徹底的に反対すると語気を強めた。

「合意なき離脱」は英国経済に壊滅的な打撃を与える。この日、英国の政策金利を0.75%に据え置いた英中銀・イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は記者会見で「合意なしでEUから離脱すれば英通貨ポンドは1985年以来、最低レベルになる」と改めて警鐘を鳴らした。

対米ドルでポンドの為替レートを振り返ると――。
1985年2月、1ポンド=1.042ドル
2007年8月、1ポンド=2.1081ドル
2019年7月、1ポンド=1.2152ドル

カーニー総裁は「合意なき離脱」なら1ポンド=1ドル近くまで暴落すると強硬離脱派に対し最大級の警告を発したのだ。世界経済は米中貿易戦争の影響で減速しているため、今年の成長予測を5月時点の1.5%から1.3%に、来年の成長予測も1.6%から1.3%に下方修正した。

ジョンソンは報いを受ける

もし移行期間のない「合意なき離脱」になれば「英国は景気後退する確率が3分の1以上もある」と指摘。「今の袋小路が続くより『合意なき離脱』の方が良いというトランプ大統領の前経済顧問の発言は誤り」と一蹴した。

EUとの関係を完全に断ち切る「合意なき離脱」になれば、スコットランドでは2回目の独立住民投票を求める声が強まり、北アイルランドでは英国からの分離とアイルランドへの統合を問う住民投票を止めるのが難しくなる。

自分が首相になりたいためだけに天に向かって唾を吐き続けてきたジョンソン首相はこれからその報いを受けることになる。「帝国主義の思潮」に浸るイングランド・ナショナリズムを原動力にするブレグジットはいよいよ英国を自壊の淵に追いやり始めた。

20190806issue_cover200.jpg
※8月6日号(7月30日発売)は、「ハードブレグジット:衝撃に備えよ」特集。ボリス・ジョンソンとは何者か。奇行と暴言と変な髪型で有名なこの英新首相は、どれだけ危険なのか。合意なきEU離脱の不確実性とリスク。日本企業には好機になるかもしれない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、労働長官にチャベスデレマー下院議員を指

ビジネス

アングル:データセンター対応で化石燃料使用急増の恐

ワールド

COP29、会期延長 途上国支援案で合意できず

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story