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「ポスト・メルケル」にらむ英国のEU離脱チキンゲーム 「合意なき無秩序離脱」は回避できるのか
翌18日の英国側の内輪ブリーフィングはお通夜に逆戻りだった。メイ首相とEUの間で話し合われたのは移行期間に新たな通商協定で合意できない場合、期間を2021年末まで延長する案だ。
それでも「目に見える国境」を復活させない協定で合意できなければバックストップを協議する(英国案)のか、それとも予めバックストップを決めておく(EU案)のか、双方の隔たりは大きい。
イギリス国内も分断
移行期間を1年延長すると60億~140億ポンド(英紙デーリー・テレグラフ)をEU側に支払わなければならなくなるため、「有権者はメイ首相を許さないだろう」と強硬離脱派は息巻く。強硬離脱派40~50人と閣外協力を得る北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)10人の下院議員に造反されるとメイ首相は「即死」である。
交渉が進展せず、疲れをにじませるメイ首相(18日、筆者撮影)
ここは黙って踏ん張るしか手がないのだが、EU側がはねつけると英国にボリス・ジョンソン前外相らの強硬離脱派政権が誕生、交渉は決裂し、「合意なき離脱」が確実になる。そうすれば「目に見える国境」が復活して北アイルランド情勢が一気に不安定化するリスクが膨らむ。
綱渡りのような欧州の政治カレンダーを見ておこう。
10月28日 独ヘッセン州議会選。メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)と「大連立」を組む社会民主党(SPD)が大幅後退の可能性大。SPDが政権を離脱して、メルケル首相は少数政権に転落したり、総選挙になったりする恐れも
12月13~14日 EU首脳会議。本当の意味でのデッドライン
2019年3月29日 午後11時、英国がEUを離脱
2019年5月 欧州議会選。反EUの懐疑派勢力が拡大する恐れ
2020年末 最初の移行期間終了
2021年10月 独総選挙(予定)
2021年末 移行期間の延長期間終了
2022年4月 仏大統領選(予定)
2022年5月 英総選挙(予定)
政治的な袋小路に入ったEU離脱交渉を軌道に戻すためには、英国とEUの政治状況が変わる必要がある。メイ首相の記者会見を待つ列に並んでいる間にメルケル首相は会見場に入り、記者会見を終え出ていった。その際「まだ並んでいるの」と筆者ら報道陣に声を掛けたが、表情はこれまでに見たことがないほど憔悴し切っていた。
英紙フィナンシャル・タイムズによると、メルケル首相はディナーの席で「EUとアイルランドは英国との正面衝突を避けるため北アイルランド国境問題へのアプローチを再考すべきだ」と示唆したそうだ。一方、メイ首相は「意志あるところに道あり」というメルケル首相の発言を引いて移行期間に解決策を見出すと強調した。
2人の政治生命はともに風前の灯火だが、EU離脱交渉は「ポスト・メルケル」をにらんで先の読めない最終ラウンドに突入した。欧州は間違いなく激動の時代を迎えている。
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