コラム

イタリア「五つ星運動」31歳首相誕生までのシナリオ 最大の障害は民主党のレンツィ元首相だ

2018年03月07日(水)13時00分

首相になる可能性が出てきた「五つ星運動」のディマイオ党首(3月2日、筆者撮影)

[ローマ発]欧州連合(EU)と単一通貨ユーロに強い疑念を唱えてきた新興の市民政党「五つ星運動」と極右政党「同盟(旧・北部同盟)」が大躍進したイタリア総選挙について、国際問題研究所(iai)のエリオノーラ・ポリ研究員にインタビューした。

市民政党を阻む障害

ポリ氏の解説によると、上下両院で第1党になった「五つ星運動」のルイジ・ディマイオ党首(31)が投票前に発表した組閣名簿のメンバーは左派中心。選挙期間中に取り沙汰された「イタリア第一!」を掲げるナショナリストの「同盟」と組む「EU懐疑派連立政権」の線は薄れ、民主党との「左派連立政権」が最も有力になってきた。

しかし「五つ星運動」を目の敵にするEU統合派の民主党書記長マッテオ・レンツィ元首相が「総選挙での敗北の責任を取って辞任するが、次の政権が樹立されてからだ」と釘を差しており、「五つ星運動」政権誕生を阻む最大の障害になっている。

民主党の敗北は、2016年12月の憲法改正国民投票で有権者から不信任を突き付けられ首相を辞任したレンツィ氏を再び首相候補に担いで今回の総選挙を戦ったことに尽きる。

過去、首相を4期務めたシルビオ・ベルルスコーニ元首相(81)の「頑張れ(フォルツァ)イタリア」が票を伸ばせなかったのは、ベルルスコーニ氏が脱税で公職から追放されており、選挙に勝っても首相にはなれないからだ。このため、中道右派連合の票はマッテオ・サルヴィーニ書記長率いる「同盟」に流れた。

左派色を強める「五つ星運動」と、もともとEUの枠組み内でイタリア北部の自治拡大や独立を主張していた「同盟」はグローバリゼーションと自由貿易への反対票を集めたという点では共通している。

豊かな北部を支持基盤とする「同盟」はユーロ導入、欧州債務危機を経て、EUへの疑念を強めるようになり、ユーロからの離脱を唱えていた。サルヴィーニ書記長になって穏健なEU改革路線に転換し、支持を広げた。

一方、貧しい南部で支持を広げた「五つ星運動」はイタリアで生まれたすべての市民の生活を守ることを最優先課題に掲げる。1週間の社会奉仕と求職活動を継続していることを条件に、全国一律月780ユーロのベーシックインカム(最低限の所得保障制度の1つ)を導入することを公約にした。ベーシックインカムは決して荒唐無稽な政策ではない。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story