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ドイツ「大連立」交渉が破綻すればEUのカオスが始まる
メルケル首相とシュルツ党首は党利党略を超えて3度目の大連立を組む以外に選択肢はない。ましてやシュルツ党首は欧州議会の前議長である。自分たちが撒いた種は自分たちで刈るしかないのだ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領の任期は22年5月まで。メルケル首相とシュルツ党首が大連立を継続させれば少なくとも21年9月までドイツとEUは時間を買うことができる。その間、独仏協調を軸にイギリスのEU離脱を円滑に進める一方で、EUというシステムの信頼回復に全力を注がなければならない。
第二次大戦の荒廃から見事に欧州を蘇らせた統合の歴史の針を巻き戻してやる必要がある。たびたび戦争の原因になってきた石炭と鉄を共同管理することで平和と繁栄の礎にしようという高邁な理念はいつしか大きく歪められてしまった。
EUは世界金融危機のあと大きく開いた富者と貧者の二極構造の中で、経済的強者をさらにリッチにさせるだけの巨大システムとみなされるようになってしまったのだ。
搾り取るシステム
社会保障や教育を犠牲にした巨大バンクの救済。資産バブルを生み出した量的緩和。グローバル企業の悪質な租税回避を助長しているのはEU加盟国の銀行や弁護士、公認会計士なのだ。
極めつけが、世界金融危機と欧州債務危機の際、欧州委員長を務めたジョゼ・マヌエル・バローゾ氏の米ゴールドマン・サックスへの天下りである。EUとは一事が万事この調子なのだ。
EU離脱交渉でも「良いとこ取りは許さない」とイギリスをぎりぎり締め上げるが、それがどれだけイギリスとEU双方の企業や労働者、消費者を苦しめているか考えたことがあるのだろうか。
政治家もEU官僚も、庶民がどんなに苦しもうと何一つ困らない。EUというネオリベラリズムを極端にしたシステムの中でますます権力を強大化させているのだ。それはバローゾ氏の件を見るだけでも明らかだ。
メルケル首相にも、シュルツ党首にも、マクロン大統領にも選択肢はない。EUの信頼を取り戻す以外に道はない。