コラム

ドイツ「大連立」交渉が破綻すればEUのカオスが始まる

2017年11月27日(月)14時30分

大連立が失敗すれば、ヨーロッパを支える独仏協調も危うい? EUCharles Platiau-REUTERS

[ロンドン発]9月のドイツ連邦議会選挙から2カ月余が経ち、キリスト教民主同盟(CDU)のアンゲラ・メルケル首相と社会民主党(SPD)のマルティン・シュルツ党首が3度目の「大連立」を組むか否かの交渉に入る。下手をすると解散・総選挙という事態に追い込まれるかもしれない。

議席数だけを見れば、もともと大連立の継続がメルケル首相にも、ドイツにも、そして欧州連合(EU)にとっても最も望ましい選択肢だ。がしかし、大連立を組むたび社民党は恐ろしいほど票を減らし、9月の連邦議会選挙では史上最低の得票率20.5%まで落ち込んだ。

メルケル首相との対決姿勢を鮮明にしたいシュルツ党首が「下野する」と断言。このため、政党カラーがジャマイカ国旗と同じになる「黒(CDU)」、「黄(自由民主党=FDP)」、「緑(90 年連合・緑の党)」の「ジャマイカ連立」交渉がずっと行われていたが、難民家族の受け入れに反対する自由民主党が最後の最後になって離脱した。

KIM_9368 (720x540).jpg
選挙の結果を受けて記者会見するメルケル首相(今年9月、筆者撮影)

CDUとの一体化を警戒する若手

連立協議は社民党出身のフランクワルター・シュタインマイヤー大統領の主導により大連立の継続を交渉するという振り出しに戻った。しかし社民党の若い支持層はCDUとの一体化がさらに進むことを警戒している。最終的な決断はシュルツ党首ではなく、12月の党大会に委ねられる可能性が強い。

オランダ総選挙とフランス大統領選でEU崩壊を目論む極右政党を抑え込み、「EU防衛戦争」の勝利は確実になったかに見えたのだが、肝心要のドイツが足をとられた。「EUの女帝」とまで呼ばれるメルケル首相の終わりが始まるのか。

世界金融危機に続く欧州債務危機で、メルケル首相は「ノー・オールタナティブ(それ以外に他の選択肢はない)」というフレーズを繰り返し、ユーロ導入国を支援した。

ドイツの主要政党がユーロとEUの防衛を最優先課題に位置づけた時点でドイツの有権者は選択肢を失ってしまったのだ。メルケル首相のこのフレーズに反発して誕生したのが反ユーロの新興政党「ドイツのための選択肢」だった。

2015年100万人を超える難民が押し寄せた際、メルケル首相は他に選択肢がないとばかりに超法規的措置として門戸を開放した。これがドイツ国民やハンガリーやポーランドなど旧東欧諸国の強烈な反発を買い、「ドイツのための選択肢」やEU域内の右傾化を加速させた。

【参考記事】ドイツで極右政党が第3党に 躍進の3つの要因
【参考記事】ドイツ総選挙 極右政党「ドイツのための選択肢」94議席の衝撃 問われる欧州の結束

DSC_0559 (720x539).jpg
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで講演したあと学生との自撮りに応じるシュルツ欧州議会議長(2016年9月当時、筆者撮影)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story