コラム

国民統合へ手腕を発揮するフランスのマクロン大統領 国民議会選も第1党の勢い

2017年05月17日(水)16時00分

大統領選の勝利を喜ぶマクロンと妻ブリジット(5月7日) Masato Kimura

<「ポピュリズムに屈するのを拒んだ祖国を誇りに思う」と、マクロン支持者は言う。若き新大統領がその期待通り、右傾化の流れを断ち切り、分断を修復できれば、フランスは再び偉大になる>

[ロンドン、パリ発]フランスの大統領エマニュエル・マクロン(39)が動き始めた。欧州連合(EU)の中軸をなすドイツの首相アンゲラ・メルケルを訪れ、EUの結束を示したかと思うと、2024年夏季五輪・パラリンピック招致のため国際オリンピック委員会(IOC)のメンバーにパリの魅力をアピールした。

【参考記事】フレンチ・パラドックスが生み落とす「親EU大統領」マクロン

オランド前政権とは一線

6月11、18日の国民議会選(下院、定数577)に備えて中道政治運動「前進!」を「前進する共和国」に衣替えした。政権のカギを握る首相には右派・共和党下院議員で北部ルアーブル市長も務めるエドアール・フィリップ(46)を抜擢した。マクロン新党には左派・社会党や中道からの合流が相次ぐが、共和党の切り崩しは難航している。

マクロンと同じ国立行政学院(ENA)を出たフィリップは、共和党内の予備選決選投票で敗れた元首相アラン・ジュペの側近中の側近。国民戦線党首(当時)ジャン=マリー・ルペンが決選投票に進んだ2002年の大統領選で、ジュペとともに右派勢力を合流させ、共和党の前身である国民運動連合(UMP)を創設したキーマンの1人だ。6年前からマクロンと親交があるフィリップは「マクロンと考え方を90%共有している」と公言していた。

【参考記事】フランス大統領選、勝者マクロンは頼りになるのか

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」という格言通り、マクロンはまずフィリップを政権に取り込んだ。社会党から共和党に鞍替えした政治遍歴を持つフィリップは中道だけでなく左派と右派をひっつけるのに最適な人物。ジュペに対する強烈な秋波にもなる。

一方、オランド政権で首相を務めたマニュエル・バルスは「社会党は死んだ」と言ってマクロン新党への参加を表明したが、マクロン陣営から「リサイクル政治家は要らない」とバッサリ切り捨てられた。オランド政権で経済産業デジタル相を務めたマクロンだが、支持率4%と完全に国民の信頼を失った前政権とは明確な一線を引いている。

世論調査会社Harrisの質問に57%が「フィリップのことをよく知らない」と答えた。しかし、4月24日~5月1日に行われたOpinionWayの世論調査では、マクロン新党は共和党を中心とした中道右派勢力の200~210議席を抑えて、249~286議席を獲得すると予測されている。過半数の289議席まであと一歩だ。直近の世論調査でもマクロン新党の支持率は29%と一段と勢いを見せる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、フェンタニル巡る米の圧力に「断固対抗」=王外

ワールド

原油先物、週間で4カ月半ぶり下落率に トランプ関税

ビジネス

クシュタール、米当局の買収承認得るための道筋をセブ

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 5
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 6
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story