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トランプ米大統領を誕生させた「生きさせろ」という脱工業化の呪い
米労働省によると04年から14年にかけ製造業で213万人、建設業で84万人、農業に従事する自営業者21万人、非農業の自営業者88万人の仕事が失われた。肉体労働に従事する白人中年男性は次第に居場所を失っている。トランプが高速道路や橋、トンネル、空港、学校、病院などインフラ整備に投資すると約束したのはこうした層への失業対策だ。
人種差別発言や性差別発言を繰り返したトランプだが、勝利のツボは外さなかった。グローバル企業や金融機関の代弁者であり、自由貿易や新自由主義(ネオリベラリズム)の信奉者であるヒラリーは、それが故に敗北したのだ。そして共和党は大統領だけでなく、上下両院の過半数を押さえた。米国の政治をマヒさせてきた大統領府と議会のねじれは解消された。
米中西部から大西洋岸中部に広がる「ラストベルト」はかつて製造業が盛んな地帯だったが、生産拠点が移り、使われなくなった工場や機械が赤茶色にさびついた。「ラスト」とはさびという意味で、脱工業化の負のシンボルとなった。米紙ニューヨーク・タイムズ電子版の大統領選マップを見ると、「ラストベルト」を中心にトランプが票を伸ばしたことが一目瞭然だ。
俺たちにも、生きさせろ
これはヒラリーだけでなく、グローバリゼーションの負け組になった「ラストベルト」で雇用を回復させると約束したが、果たせなかったオバマ大統領への批判票でもある。
「米国を偉大な国に復活させよう」をスローガンに掲げたトランプは大統領選の期間中、めまいを覚えるような実に多くのことを約束した。
「メキシコ国境に壁を築く」「ヒラリーを私用メール問題で刑務所にぶち込む」「イスラム教徒の米国入国を禁止する」「200万人以上の罪を犯した違法移民を国外追放する」「医療保険制度改革(オバマケア)を廃止する」「国連の気候変動プログラムに対する米国の拠出金をすべて撤回する」
トランプは勝利演説でこうも言った。「米国の利益を一番に考えるが、諸外国とは公正な関係を構築する。諸外国とは敵対することなくパートナーとしてやっていく」。トランプ大統領の誕生を心底喜んでいるのは、新たな世界秩序を構築するため、第二次大戦のスターリンとルーズベルトのように米国と対等な立場で話したいロシアのプーチン大統領だろう。
トランプを支持した人たちの「俺たちにも、生きさせろ」という声を無視することは民主主義の否定につながる。彼らは人種差別主義者で性差別主義者のトランプ個人を支持したわけではない。トランプ大統領は米国の「ラストベルト」「ロストゼネレーション(失われた世代)」を救うことに専念すべきだろう。