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悲しきテロリストの正体 欧州の非行ムスリムに迫るISの魔手
日本でも、警察や公安調査庁が内ゲバ抗争を繰り広げた中核派や革マル派を「極左暴力集団」と呼んだことがある。
アルカイダが欧米支配を打破するジハード思想を重視し続けているのに対して、新興勢力のISは同じイスラム教のシーア派を「異教徒」として敵視し、本家筋のアルカイダとも激しい主導権争いを演じている。社会不満が充満する欧州のイスラム系移民ゲットー(マイノリティーが集中する居住区)、下層階級、犯罪者、刑務所は、ISにとってジハーディストをリクルートする格好のターゲットなのだ。過去5年間で西欧諸国の若きイスラム系移民5千人がシリア内戦に参加したと推定されている。
パリ同時多発テロやベルギー連続爆破テロのネットワークに深く関与していたハリド・ゼルカニ。ブリュッセル首都圏モレンベークのモスク(イスラム教の礼拝所)を拠点に若きイスラム系移民をリクルートして72人をシリア内戦に送り込んでいた。
パリ・ブリュッセルのテロネットワーク(ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ作成)
「サンタクロース」と呼ばれていたゼルカニはジハードの資金づくりのため、「異教徒から盗むのはアッラー(イスラムの唯一神)によって許されている」と泥棒や強盗をするよう促していた。ゼルカニはイスラム教の説教師ではないが、「半グレ」ムスリムに「犯罪」を「テロ」に置き換えるだけで人生が変わると口説いていた。
パリ同時多発テロの首謀者アバウド。彼も「半グレ」ムスリムだった(ISのオンライン機関誌DABIQより)
イスラム系移民の統合を
もちろんイデオロギーが果たす役割が全くなくなったわけではない。しかし国際テロの主役がアルカイダからISに変わる中で、西欧諸国の若きムスリムをリクルートする際にイデオロギーが果たす役割は随分小さくなっているというのがICSRの分析だ。
ISが犯罪者に注目するのは(1)地下の犯罪組織とつながりを持っているため、武器を入手しやすい(2)テロや犯罪への抵抗感が少ない(3)警察の目をごまかすのに慣れている――からだ。
パリ同時多発テロの費用は「3万ユーロ未満」(仏財務相)。1994年から2013年に欧州であったテロ計画の4分の3は、9千ユーロ未満の低予算だった。ソ連崩壊で旧共産圏諸国から大量に流出した自動小銃AK-47(カラシニコフ) の密売価格は今では2千ユーロを割っている。1千ユーロ以下という説もある。
【参考記事】【現地リポート】無差別テロ、それでも希望の光を灯し続けよう
犯罪者をテロリストに仕立て上げると、麻薬の密売、泥棒、強盗、コピー商品の違法販売、ローン詐欺によってテロ資金の現地調達がやりやすくなる。ICSRによると、欧州のテロ計画のうち40%がこうした違法活動によってテロ資金の一部を稼いでいた。
背景には、イスラム系移民の社会統合が進まず、教育や就職の格差が拡大し、若きムスリムの多くが犯罪に走っているという問題が横たわる。長期戦が避けられない欧州のテロ対策を進める上で、スタートラインになるのが、置き去りにされてきたイスラム系移民の社会統合であるのは言うまでもない。