- HOME
- コラム
- 欧州インサイドReport
- 悲しきテロリストの正体 欧州の非行ムスリムに迫るI…
悲しきテロリストの正体 欧州の非行ムスリムに迫るISの魔手
Eric Vidal-REUTERS
<ISがリクルートするテロ要員のなかに、犯罪者の割合が高まっている。イデオロギーよりも犯罪関連の「特技」など実益をとる考え方だ> (写真は、テロリストの街と呼ばれるベルギー・ブリュッセルの一角モレンビーク地区。パリ同時多発テロのサラ・アブデスラム容疑者が逮捕された建物)
過激派組織ISがテロの最前線、欧州の大都市でリクルートするテロリストと犯罪者の境界が分からなくなってきた。国際テロ組織アルカイダと同様、ISもカリフ制による「イスラム国家」の建設を掲げているが、アルカイダが「テロの大義」や「イデオロギー」に重きを置いているのに対して、ISはテロの拡散を優先するため、教義にはこだわらず、資金稼ぎのため犯罪まで推奨しているという。
犯罪者がテロリストに
英キングス・カレッジ・ロンドン大学過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)が11日、「犯罪者としての過去とテロリストの未来」と題した報告書を発表した。副題は「欧州のジハーディスト(聖戦主義者)、犯罪とテロの新しいつながり」。かなり興味深い内容だった。
8月31日の朝、デンマークの首都コペンハーゲンで、2人の刑事が怪しい男に近づいた。男は突然、ピストルを抜き、刑事に向けて発砲して逃げた。刑事2人とそばにいた人が被弾した。男は最終的に発見されたが、銃撃戦で負った傷がもとで死亡した。男はボスニア系の25歳。警察にはよく知られた「ヤク(麻薬)の売人」だった。所持品のスポーツバッグから約3キロの薬物が見つかった。
2日後、ISが「男はカリフ制国家(イスラム国)の兵士だ」と犯行声明を出した。「ジハーディスト」はイスラム原理主義者で薬物や犯罪とは無縁と考えられてきた。男は2つの顔を持っていた。ある時は麻薬の密売人。また、ある時はISへのシンパシーを表明するサラフィー主義者(古き良きイスラムに戻ろうというイスラム教スンニ派の保守思想)。男はISのプロパガンダ動画にも登場していた。
「最悪の過去を持った男が最高の未来を創造する」というイスラム過激派のプロパガンダ(Facebookより)
犯罪者か、それともテロリストなのか。欧州では犯罪者がテロリストになるケースが激増している。ドイツ連邦警察局がイラクやシリアに渡航し、内戦に参加したドイツ人669人の背景を分析した結果、3分の2が渡航前にすでに前歴を持ち、警察の記録に残っていた。3分の1は有罪判決まで受けていた。ベルギー連邦検察局によると、ジハーディストの半分に前科があったという。
国連報告書によると、フランスの状況も似たり寄ったりだ。ノルウェー、オランダ当局はICSRの調査に対し、少なくともジハーディストの6割は犯罪に関わっていたと答えた。ベルギー連邦警察のトップはISを「ある種のスーパー・ギャングだ」と呼び、フランスの新聞はイスラム武装集団を「ギャング・テロリスト」と表現した。
【参考記事】ベルギー「テロリストの温床」の街
ICSRが背景を把握できるジハーディスト79人を対象に分析した結果、68%に軽犯罪歴、65%に暴力歴があった。30%近くは銃器を扱った経験を持ち、57%が刑務所に服役していた。そして15%が刑務所内でジハード思想に染まっていた。つまり刑務所は「テロリストの人工孵化器(インキュベーター)」だったというわけである。