南北首脳会談──平壌を訪問したサムスンのオーナー
2000年の南北首脳会談以降、金剛山の開発や自動車合弁会社を設立するなど、北朝鮮への投資に積極的だったヒュンダイグループなどとは異なり、サムスンは対北事業に消極的で、テレビやラジオを平壌で委託加工するレベルにとどまっていた。それまでの首脳会談にもトップが参加することはなかった。
しかし今回は様子が異なる。韓国政府が主催した今回の首脳会談の事前説明会の場に、ほかの企業会長らが代理人を送るにとどまったのに対し、李副会長は自ら足を運んでいるのだ。特別随行員らに首脳会談の日程や現地での注意事項についての説明が行われる場だったが、李副会長は取材陣に対し「当然、参加すべきだと思い来たまでです」と答えている。
李在鎔副会長が平壌行きに積極的な姿勢を見せている理由について、韓国メディアでは様々な推測が流れている。特に現在、李副会長は朴槿恵前大統領の黒幕に対する贈賄疑惑により、執行猶予中の身だ。今後も裁判が続くため、保身のために政権にすり寄っているという話が目立つ。
一方で南北経済協力のメリットに触れる報道もある。
米CNNは「南北の経済がつながり、韓国がアジアの大陸を結ぶ陸路が建設され、収益性の高い貿易とインフラが開放される計画を文在寅政権が提示した」「こうした計画は結局、サムスンをはじめとする財閥の利益になり得る」と報じている。
背景には様々な事情が絡んでいるのだろうが、韓国の政界ではこれと関連して興味深い噂が流れている。
李副会長はサムスングループを世界的な企業に育てた父・李健熙会長のようにリーダシップを発揮できず、グループ役員らを思い通りにコントロールできないことに悩んでいるという。その上、贈賄罪の疑惑で拘置所暮らしをし、サムスンの御曹司として育ってきた人生で初めての屈辱を味わっている。
悩んだ彼はある著名な宗教家を訪ね、このようなアドバイスを受けたという。
「これまでにサムスンが関わっていない分野を主導して、そこで成果を挙げてはどうか」
そこで目を点けたのが対北朝鮮事業ということだ。
サムスングループ傘下には建設、電子、造船、バイオなど、南北経済協力に参入しやすい分野の会社が多いのも確かだ。これまで対北事業はヒュンダイグループが担ってきたが、そこにサムスンが加わる可能性がある。
世界有数の大企業であるサムスンが、北朝鮮でどのような事業展開をしていくのか。今後が注目される。
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