コラム

なぜ朴槿恵の髪型は40年も変わらないのか

2017年03月09日(木)16時45分

Charles Platiau-REUTERS

<韓国・朴槿恵大統領の弾劾可否は10日に言い渡される。40年間ほとんど変わらない彼女の髪型は、「朴槿恵」という人物を考えるうえで、象徴的な意味を持っていた>

「朴槿恵」という人物を考えるにおいて、以前から気になっていたことがある。それは髪型だ。彼女はあの髪型を約40年間、ほとんど変えていない。髪をアップにした上でボリュームを持たせた髪型で、日本同様、韓国でも決して今風の髪型ではない。

クラシックなこのヘアスタイルは保守政治家としてのイメージアップにもなるかもしれないが、政治家としてアクティブな印象が削がれる髪型でもある。

「セウォル号」転覆事故当日にも呼ばれた美容師

朴槿恵政権の黒幕による国政介入と関連し、弾劾の是非を決める憲法裁判所は、審判の結果を10日に言い渡すと発表した。弾劾妥当の判決が出れば、その場で大統領から罷免される。

実は大統領の資質として、この髪型に関する問題もクローズアップされている。

弾劾訴追では、2014年4月16日に起きた旅客船「セウォル号」の転覆事故に関する問題に焦点が当たった。300人以上の人が死亡および行方不明となった大事故が起きた当日、報告を受けた朴槿恵が7時間も後になって、ようやく事故対策本部に姿を現しているのだが、それまでの動向がはっきりしていない。緊急事態に大統領としての責務を全うしていたのかどうかについて問われただけでなく、その時間にボトックス注射などの美容施術を受けていたのではないかという驚くべき疑惑も生じ、青瓦台の関係医師らが国会の聴聞会で追及された。

現在、わかっているのは、その7時間に朴槿恵は執務スペースの本館ではなく生活スペースの官邸にいたこと、書面や電話で報告を受けたものの大臣や官僚と直接、会っていないこと、そして事故対策本部に行く前に美容師を呼んでいた、ということだった。

朴槿恵がこの髪型で世間に姿を現したのは1974年のこと。1974年8月15日、母・陸英修が暗殺され、フランスに留学中だった朴槿恵は急きょ帰国するのだが、そのまま父・朴正煕をサポートするファーストレディの役割を果たすようになる。この時、それまで肩までたらしていた髪の毛を、母親とまったく同じスタイルに結い上げて登場したのだ。

この髪型は韓国で通称「フカシモリ」と呼ばれている。「フカシ」とは日本語の「ふかす」が語源とされており、髪の毛をボリュームアップさせるために挟む毛たぼを「フカシ」と呼ぶこともある。「モリ」は頭という意味だ。

事故当日の午後に青瓦台に美容師が呼ばれ、その上、ヘアセットに90分かかったという報道がされると、青瓦台側は美容師を呼んだのは事実だが20分で済ませたと反論した。いずれにせよ緊急時にも美容師を呼ぶ必要のある、手間のかかる髪型であることは間違いない。人の命にかかわる一刻も争う事態の中で、美容師を呼んでいたという事実は国民の怒るを買うに十分だった。

政治家にはフットワークの軽さが求められるもの。誰が見ても手間と時間のかかる髪型は時に批判の的にもなっていた。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:カナダ総選挙が接戦の構図に一変、トランプ

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story