コラム

なぜ朴槿恵の髪型は40年も変わらないのか

2017年03月09日(木)16時45分

朴槿恵がハンナラ党代表に就任した際、週刊誌「時事ジャーナル」(2004年4月20日)が、女性記者によるこのようなコラムを掲載している。
「私が彼女(朴槿恵のこと)を可能性のある独自の視点を持つ政治家として評価しかねるのは、おかしな理由に聞こえるかもしれないが、彼女のヘアスタイルのためだ」とし、時間もかかり、崩れるのを気にして車中で仮眠を取ることもままならない髪型に固執する人が、どうやって党を率いていくのかと疑問を呈した。

実際に彼女はこの髪型のために不便を被ったこともある。米国を訪問した2007年2月、空港の検査で髪の毛のヘアピンが多すぎて金属探知機に引っかかり、その場で24本ものピンが抜かれたのだ。

それでも彼女がこの髪型とともに守りたかったものは何なのか。

髪型にも、あの黒幕一家の意向が...

朴槿恵は40年間、髪型を変えていないとされているが、正確に言うと2度変えたことがある。

一度は2007年にハンナラ党代表を務めていたときだ。少し切った髪の毛をおろし、メディアでも「朴槿恵が髪型を変えた」と報じられた。しかし「支持者からの評判が悪かった」という理由で、元の「フカシモリ」に戻すまでにそう時間はかからなかった。

韓国で「出れば勝つ選挙の女王」と呼ばれるほどの支持基盤を朴槿恵が築き上げることができたのは、保守層から支持され続けている父・朴正煕の娘であるという面が大きい。母・陸英修の髪型を模倣することで、朴正熙支持者らのノスタルジアを呼び起こす効果を狙った可能性もある。もしかしたら朴正熙時代を思わせる髪型は、支持者だけでなく彼女自身の心の支えになっていたのかもしれない。

IMG_0685.JPG

朴槿恵の母・陸英修

さらにさかのぼって政治家になる前の1988年11月、「週刊朝鮮」の取材で長年、髪型が変わらないことについて聞かれると、彼女はこう答えている。
「1年ほど前に一度変えたんですよ。でも大騒ぎになって。セマウム奉仕団の方々はもちろん、人に会う度に元の髪型のがいいと言われたんです」
「セマウム奉仕団」とは朴槿恵の黒幕とされている崔順実(チェ・スンシル)の父・崔太敏(チェ・テミン)が設立した団体だ。朴槿恵も自身もこの団体の名誉総裁だった。

つまりあの髪型にも、黒幕一家の意向が強く反映されていたというわけだ。

髪型すら自分の意思で変えられず、セウォル号事故ではその髪型が大統領の資質を問われることになった。

まさに髪に縛られた呪縛と言えるだろう。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月住宅建設業者指数45に低下、1月以来の低水準

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%減 市場予想に一致

ワールド

シンガポール、20年ぶりに新首相就任 

ワールド

米、ウクライナに20億ドルの追加軍事支援 防衛事業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story