コラム

高校無償化、東京都の「独走」で何が起きる? 小池都知事の思惑と、実現時のインパクトとは

2023年12月20日(水)17時11分
東京都の小池百合子知事

JUN SATO/GETTY IMAGES

<授業料助成から所得制限を撤廃するという小池百合子都知事の方針は、「裏金」問題に揺れる国政にも大きく影響する可能性が>

東京都が高校教育の実質無償化に乗り出した。国政においても教育無償化が再び注目を集めており、解散総選挙や場合によっては政界再編も取り沙汰されるなか、教育政策が政局の引き金となる可能性も出てきた。

小池百合子都知事は2023年12月5日、都議会の所信表明において、私立高校も含む全ての高校の授業料を実質無償化する方針を明らかにした。これまで都の授業料助成には所得制限が存在していたがこれを撤廃する。加えて給食費の支援も行うとしており、都政として教育支援を強化する流れを鮮明にした。

小池氏はもともと教育無償化を強く主張していたことや、24年夏に知事選が控えていることもあり、所得制限の撤廃はある程度予想されていたものの、このタイミングでの表明にはもう1つの狙いがあったと考えられる。それは国政に対する自身の影響力の維持である。

所信表明において小池氏は、教育支援は本来、政府主導で行うべきと発言しており、国政への注文がセットになっていた。ほぼ同じタイミングで岸田政権が多子世帯の大学無償化を含む「こども未来戦略」を打ち出し、国民民主党の前原誠司氏が「教育無償化を実現する会」という新党結成を表明するなど中央政界でも無償化をめぐって動きが活発になっている。

岸田政権は末期症状を呈しており、最大派閥である安倍派幹部が一斉に捜査対象となるなど、政権崩壊や場合によっては政界再編の可能性すら取り沙汰される状況だ。こうした時期にあえて国政に対する注文という形で小池氏が無償化を掲げたということは、今後、国政でもこの問題がカギを握る可能性について示唆するものと言えるだろう。

東京都への人口集中を加速させる?

これまで教育無償化は何度も議論されながら、内容が二転三転してきたという経緯がある。子育て世帯や教育に熱心な世帯を中心に大きな支持を集める材料となり得る一方、全ての人が同じ条件で学校に通えることについて異議を唱える人も存在している。

加えて無償化政策は財政負担が大きく、政府主導で一気に無償化を進められない事情があり、そうであるが故に、政局の材料になっていた面があることは否定できない。

今回も選挙に関係した動きであることは間違いなく、本格的に日本全体が無償化に舵を切るきっかけとなるのかは何とも言えない。

単なる選挙目当ての掛け声で終わった場合、東京都のように財政的に余裕のある自治体だけが率先して無償化を進める流れとなり、近隣自治体との格差が広がる可能性が出てくる。実際、埼玉県民や千葉県民の中からは都内に転居したいという声も聞こえてきており、東京都への人口集中を加速させるかもしれない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 7
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story