コラム

人間の敵か味方か...グーグル検索を置き換える? 今さら聞けないChatGPTの正体

2023年06月02日(金)15時00分

ところが対話型AIはあたかも人間と会話しているかのように、曖昧な質問をしても即座にそれなりの答えを返してくれるため、従来型検索エンジンと比較して圧倒的にユーザー・フレンドリーである。

もし対話型AIが普及すれば、多くの利用者が気軽に話しかけられる対話型AIに流れ、従来型検索エンジンの利用が激減する可能性がある。AIの研究においてグーグルが最先端だったにもかかわらず、どういうわけかオープンAI社という小規模なベンチャー企業にその主導権を奪われる結果となった。

原因は、対話型AIの出現がグーグルの検索エンジンの領域を侵食し、自社のビジネス基盤を壊してしまう可能性があるため、同社が開発を躊躇したことにあるとされる。

グーグルは大衆の力を動員し、百科事典や書籍、あるいはそれをデジタル化したヤフーの領域を一気に侵食した。あっという間に世界の主導権を握ったグーグルと全く同じことをチャットGPTが実現しようとしている──それをグーグルが誰よりも理解していることが見て取れる。

特徴ある日本のネット空間

グーグルの行動は、まさに経営学における「イノベーションのジレンマ」の典型例と言ってよいだろう。

イノベーションのジレンマとは、圧倒的な技術力やシェアを持つ巨大企業が、全ての面で劣る新興企業にあっという間にその地位を奪われるメカニズムを示した経営理論である。

従来型のパラダイムが継続している社会では、経営体力に勝る巨大企業が常に改善・改良を加えていくため、圧倒的有利にゲームを進めることができる。

ところが、こうした強固なインフラを持っている企業は、自社のビジネス基盤を守りたいと考えるが故に、全く新しいパラダイムとして登場してきた技術やサービスを過小評価するばかりか、それを退けてしまうという決断を下すことがある。

かつて船舶が帆船から蒸気船にシフトした際、船の建造能力という点では、超大型帆船を製造してきた帆船メーカーが圧倒的に優位な立場だった。船の動力が風から蒸気にシフトしたのであれば、高い建造技術を持つ帆船メーカーが蒸気エンジンを搭載した船を造ればよく、その地位をずっと維持できるはずだった。

ところが多くの帆船メーカーは、蒸気船にシフトすると、これまで培った帆走技術やビジネス基盤の一部を失うため、その高い技術を蒸気船の分野に生かす決断ができなかった。蒸気船の分野で台頭したメーカーはほとんどが新興企業であり、帆船から蒸気船へのシフトが終わった段階では、帆船メーカーはほとんど生き残っていなかったといわれる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 7
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 8
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story