コラム

人間の敵か味方か...グーグル検索を置き換える? 今さら聞けないChatGPTの正体

2023年06月02日(金)15時00分

230606p18_KHK_02.jpg

オープンAI社のチャットGPT  PHOTO ILLUSTRATION BY BEATA ZAWRZELーNURPHOTO/GETTY IMAGES

AIの質は「集合知」次第

対話型AIの急速な普及に伴い、AIに大きな間違いをさせないため、どのような工夫が必要かといった議論が活発になっている。AIは入力されたデータから自己学習していくシステムであるため、その内容をプログラムの作成者が完全にコントロールするのは難しい。

しかしながらAIというものが、ネット上にある情報を収集して答えを得る以上、最終的な正確性を担保するのはネット空間に存在する情報の質ということにほかならない。

AIが劣悪な情報や文書ばかりが飛び交っている情報空間から学習を繰り返した場合、AIが生成する文書もレベルが低いことになる。一方、良質な情報が行き交う空間でのデータを学習したAIは、おそらく優れた答えを返してくることになるだろう。つまり最終的にAIの質を担保するのは、社会全体の質ということになってしまう。

この話はいわゆる集合知の議論と同じである。

集合知というのは、多くの人の見解を集めるとより正しい結論が得られるという概念である。例えば、健全に機能している市場が出した答えというのは、少数の専門家が出した結論より正しいことが多い。

集合知が正しいことの事例としてよく引き合いに出されるのが、1986年に起きたスペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故である。事故直後、原因もよく分からない段階から、ガス漏れを起こしたリングを製造する会社の株だけが下落を始めた。後日、調査結果が判明し、その会社のリングが事故原因と特定されたときには、株価は既に大幅に下がった後だった。

つまり、多くの人の見解は完璧に正しかったことになる。しかしながら、集合知がとんでもない方向に行ってしまうこともある。いわゆる衆愚政治によって得られた結論は、冷静な状況ではあり得ないものになるケースがほとんどである。

「集合知は正しい」という命題が成立するためには、意見に多様性があり、意見を述べる人が独立していることが絶対条件となる。集合知が成立するには、他人には左右されない、さまざまな見解を持った人が十分な数だけ集まらなければならない。同じような思想を持った人物の集団だったり、人の意見に左右される人ばかりでは、意見は簡単に一方向に流れてしまう。

さらに言えば、意見を言う人が同じ情報源から物事を判断していた場合、その正確性はかなり怪しくなる。意見を述べる個人が独立し、個別の情報源を用いて初めて集合知が成立する。スペースシャトルの事故原因を市場が正確に認識できたのは、当時のアメリカ株式市場が前記の要件を十分に満たしていたからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story