コラム

人間の敵か味方か...グーグル検索を置き換える? 今さら聞けないChatGPTの正体

2023年06月02日(金)15時00分

だが、こうした多様性や独立性が担保されていない社会では、多くの人の意見を集約すると偏った結果となる可能性が高い。これまで人類は何度も間違いを繰り返してきたが、その原因の多くは、全体の意見が一方向に流れてしまったことによるものだ。

集合知は正しいのかという議論は、ITサービスが急激に普及した近年になって、特にクローズアップされるようになったテーマといえる。その発端となったのは、米グーグルが提供した検索サービスである。

グーグルが変えた知のルール

グーグルの検索サービスは人間の知的活動を百八十度変えるほどのインパクトを社会にもたらしたといわれる。何を基準に物事を分類し、優先順位を付けるのかという概念を完全に覆したからである。

98年にグーグル検索が登場する以前は、米ヤフーが検索で圧倒的な立場だったが、ヤフーの検索サービスは人間社会が2000年以上もかけて作り上げてきた伝統的な手法と何ら変わるものではなかった。それは一定の知見を持った人材が情報を丹念に分類、整理し、優先順位を付けていくというものである。

ヤフー検索の中心となったディレクトリと呼ばれるサービスは、伝統的な樹形図の形式になっており、分野ごとに細分化された枝葉をたどって目的のサイトにたどり着く仕組みだった。

一定の基準で物事を分類し、樹形図のように細分化していくという博物学的手法は、人間の古典的な知的作業の1つであり、今でも図書館などにおいては、デューイの十進分類法と呼ばれる樹形図を用いた情報の管理が行われている。

企業における文書管理も同じであり、abc順、時系列、あるいは分野ごとなど、何らかの基準で情報を分類し、体系化する手法が使われてきた。だが、グーグルはこうした常識を全てひっくり返してしまった。

グーグルの検索エンジンにおける基本的な概念となっているのはページランクと呼ばれるもので、同社はこの概念に従って、どのサイトを検索結果の上位に表示するのか決定している。

ページランクの仕組みは、同社創業者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏がスタンフォード大学在学中に執筆した論文がベースになっている。簡単に説明すると、より多くの人が参照しているウェブサイトは信頼性と重要性が高いとされ、そのサイトを優先して表示するという仕組みである。この概念自体はグーグル創業者の2人が独自に発案したものではなく、学術論文の世界では、以前から参照数の重要性が強く認識されていた。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡

ビジネス

ロシア財務省、石油価格連動の積立制度復活へ 基準価
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story