コラム

インフレ長期化に勝つ方法はただ1つ...かつての日本はその「成功例」だった

2022年07月05日(火)19時27分
インフレとイノベーション

GALEANU MIHAI/ISTOCK

<政府が打ち出しているインフレ対策は「場当たり的」な印象が否めないが、そもそも経済学的にはインフレ対策となり得る手段は限られている>

7月の参院選では、期せずして物価が最大の争点になるなど、インフレ対策が最優先課題となりつつある。インフレというのは厄介な現象であり、物価上昇を根本的に抑制する手段は限られている。継続的なインフレに打ち勝つには、どのような政策が必要なのだろうか。

今回のインフレは、原油や天然ガスなど資源価格が高騰していることに加え、円安によって輸入コストが上昇することで発生する「コストプッシュ・インフレ」と言われる。しかしながら、1次産品の価格が上昇しただけで、これだけ大規模なインフレが発生することは通常、あり得ず、背後には必ず貨幣的要因が絡んでいると考えたほうがよい。

今回のインフレにおける貨幣的要因が、各国が実施した量的緩和策であることはほぼ間違いなく、全世界的なカネ余りによって物価が上がりやすくなっていたところに、各種の供給制限が加わったことでインフレが進んだと考えるのが自然だろう。

こうした事態に対して、政府は石油元売り各社に対する補助金の支給や、小麦の政府売り渡し価格抑制策などいくつかの措置を講じているが、どれも場当たり的という印象は否めない。というよりも、本格的なインフレが起こっているときに打てる対策はおのずと限られてくる。

成功例は70年代の日本

経済学的に厳密な話をすれば、広範囲なインフレが発生したときに取り得る手段は2つしかない。1つは金利を引き上げ、あえて不景気にすることで物価上昇を抑制する方法。もう1つはイノベーションによって企業の生産力を強化する方法である。

前者を実施すれば、経済に極めて大きな悪影響が及ぶため現実的に選択しづらい。後者を選択し、供給制限がかかった状態でも従来と同等もしくはそれ以上の生産を実現できれば、供給曲線のシフトによってインフレを克服できる。

だが、企業の生産力を全体的に増強するのは並大抵のことではない。1970年代に発生したオイルショックをきっかけとするインフレでは、日本企業は省エネ技術などに先行投資を行い、イノベーションを背景に生産を拡大することでインフレを克服した。今回についても、鍵を握るのがイノベーションであることはほぼ間違いない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story