コラム

「金融所得課税」騒動に潜む、資産形成・お金の習慣のヒント

2021年11月18日(木)17時50分

実際、年収ごとの税率を見るとその傾向は明らかである。例えば年収600万円の人の所得税率は、各種の控除を考慮すると現実には4.6%とかなり低い(この数字は申告所得が対象なので、大半のサラリーマンが該当する源泉徴収の場合、手厚い給与所得控除によって税率はさらに下がり、わずか2%台となる)。

<関連記事>実は中間層は「ほぼ無税」、なのに格差が「下方向」に拡大する異常な構図

ところが年収が1000万円になると税率は約10%に、2000万円では約19%に跳ね上がり、1億円になると約28%にまで上昇する。だが不思議なことに年収10億円の平均税率は約23%と1億円よりも低い。

このカラクリこそが、先ほどから説明している金融所得課税である。高額所得者の場合、給与や役員報酬としてお金を受け取るよりも、投資収益としてお金を受け取った方が税制面で有利になるので、高所得になればなるほど、投資収益を重視するようになり、結果的に税率を低く抑えることに成功している。

もちろん投資にはリスクがあるので、簡単なことではないが、結局のところ高額所得者というのは何らかの形で事業を行っていたり、個人の才能で仕事をしている人たちなので、自身の年収にリスクがあることは最初から承知している。同じリスクを背負うのであれば、投資のリスクを取った方が合理的である。

どの時代に投資をスタートしても、長期投資で資産を築ける

岸田氏はここに課税すれば大きな財源になると考えたのだが、そうは問屋が卸さなかった。確かに富裕層は株式や債券の配当から所得を得ているので、金融所得課税を強化すれば、富裕層に対する増税となる。

だが現実に株式を保有し、そこから利益を得ている人の大半は中間層である。金融所得課税を強化すると、富裕層課税どころか中間層への大増税となってしまうため、国民からの反発はほぼ必至だった。

これが金融所得課税強化を先送りした理由だが、ここまで記事を読んだ方の一部は、疑問を持ったのではないだろうか。株式投資というのは所得が高い人が行うというイメージであり、実際、統計的なデータもそれを裏付けている。では、株式や債券から配当を受け取る人の大半が中間層というのはどういうことだろうか。

こうした「引っかかり」のある話というのは極めて重要であり、しばしば有益な示唆を与えてくれる。この手の話に興味を覚えるかどうかが、経済的に成功できる人とそうでない人の別れ道となることが多い。

今回のケースにおける「引っかかり」を解くカギとなるのは、株式投資を実践してある程度の資産を築き、その後、年金生活に入った高齢者の存在である。

現役時代に長期にわたって株式投資を続ければ、どの時代に投資をスタートした場合でも、退職時には驚くような金額に増えていることが多い。筆者はバブル崩壊後という最悪の時代に投資をスタートしたが、20年以上にわたって貯金の多くを投資に充当し、投資残高を積み上げた結果、資産額はすでに数億円規模になっている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story