コラム

「金融所得課税」騒動に潜む、資産形成・お金の習慣のヒント

2021年11月18日(木)17時50分
岸田文雄首相

Hannah McKay-Pool-REUTERS

<富裕層に対する増税を狙った岸田政権だが、実際には中間層への大増税となるため、国民からの反発は必至だった。この話に「引っかかり」を感じるかどうかが、経済的に成功できるかどうかの別れ道となる>

岸田政権が所得分配の財源として提唱した金融所得課税が暗礁に乗り上げている。この増税案は富裕層課税の一貫として検討されたものだが、実は中間層にとっても大幅増税となってしまう。国民の反発が大きいと判断し、棚上げが決まった(岸田政権は税制改正大綱に今後の検討課題として明記し、引き続き導入の可能性を探っている)。

政治的にはそれだけのことなのだが、個人の資産形成という観点でこの出来事を眺めてみると、多くの示唆が得られる。今回のコラムでは、金融所得課税を通じて、どうすれば有利に資産形成できるのか考えてみたい。

金融所得課税というのは、具体的には株式の売却益や配当、債権の利払いなどに対する税金のことである。金融商品は市場で売買されるものであり、市場というのは常にフェアでなければ適切な運営はできない。

例えば、金融商品に関する税率が保有者によって異なる場合、当然のことながら人によって投資行動が変わってくる。市場参加者は自分以外の参加者の税金面での状況など知りようがないので、市場の値動きが不安定になり、価格形成に歪みが生じてしまう。

税金が全員にとって平等であれば、売買の決断はすべて市場要因だけに絞られるので、価格形成の透明性は格段に高まる。

こうした事情から、金融商品に関する税金は全参加者にとって平等であることが大原則となる。したがって株式の売却益や配当に関する税金は、基本的に一律20%に設定されている。

一方で所得税など所得にかかる税金というのは平等ではない。日本の場合、所得税はかなりの累進課税となっており、高額所得者になると税制面では著しく不利になる。

日本は他の先進諸外国と比較して高額所得者の数が極めて少ないという特徴があるが、その理由は、年収を上げすぎると税金ばかり増えてしまい、可処分所得の面で不利になってしまうからだ。

極端な累進課税が設定されている所得税と、公正な市場運営の観点から平等源則が貫かれている金融所得課税には大きな隔たりがあり、こうした税制面での不整合というのは、仕組みをよく知る人にとっては強力な武器となる。

年収10億円は年収1億円より所得税率が低い

同じ金額であっても、給与や役員報酬として受け取れば税金が増え、一方で投資の対価として受け取った場合には、状況にかかわらず税率は一定となる。ルールがそうなっている以上、給与を増やすよりも、投資収入を増やした方が個人的には有利になってくる。

岸田氏は金融所得税強化を打ち出した際、「1億円の壁」という言葉を使った。これは所得税と金融所得課税を総合すると、本来、極めて高い税率がかかるはずの年収1億円以上の富裕層の税率がそれほど高くなっていないことを意味する言葉である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story