コラム

コロナ不況下の日本に、最悪のスタグフレーションが迫る構図を読み解く

2020年04月21日(火)12時12分

景気が停滞(Stagnation)する一方で物価上昇(Inflation)が進むのがスタグフレーション USENG/ISTOCKS

<新型コロナで日本経済がすでに景気後退入りしているとされるなか、物価だけが上がるという最悪の状況が現実になりつつある>

新型コロナウイルスの感染拡大でデフレ激化を懸念する声が上がるが、一方でスタグフレーション(不景気下のインフレ)のリスクも徐々に高まっている。好景気によるインフレは、賃金も上がるのでそれほど大きな混乱は生じないが、スタグフレーションではそうはいかない。ただでさえ苦しかった庶民の懐はさらに厳しくなる可能性もある。

経済学的に見てインフレには2種類ある。ひとつは需要の伸びが大きく、供給が追い付かない場合に発生するディマンドプル・インフレ、もうひとつは、何らかの理由で供給側のコストが上昇するコストプッシュ・インフレである。

一般的にディマンドプル・インフレは好景気の時に起こりやすいが、コストプッシュ・インフレはそうとは限らない。1973年に発生したオイルショックはその典型だが、原油価格の一方的な上昇をきっかけにあらゆる製品の価格が上昇し、景気とは無関係に一気にインフレが進んだ。

日本では近年、デフレが続いているとされてきたが、それは物価上昇率が鈍いという意味で、物価の絶対値はむしろ上昇を続けている。アベノミクス以降はその傾向が顕著で、消費者物価指数(総合)は過去7年間で6.5% も上昇した。徐々にインフレが進んでいるというのが実態だ。

コロナで起きるのはデフレかインフレか

インフレが進む最大の理由は、諸外国とのGDP格差が拡大したせいで、輸入価格が上昇したことに加え、深刻な人手不足から、建設や外食など、現場作業が必要な業界を中心に人件費の高騰が進んでいるからである。

こうしたなかで発生したのが新型コロナウイルスである。各国に感染が拡大していることから、世界的な景気後退の可能性が高まっているが、需要減からモノが余るので一見するとデフレを誘発しそうに思える。確かに総需要が減るので、一部の商品は価格が下がるかもしれないが、話はそう単純ではない。全世界で人やモノの流れが停滞していることで、航空機などの便数が大幅に減少し、貨物運賃の急騰を招いているからだ。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story