コラム

安倍首相が「世界最大級」と胸を張る、117兆円対策の大いなるウソ

2020年04月23日(木)12時16分

一律10万円の支給に方針転換したことは評価できるが…… TOMOHIRO OHSUMIーPOOLーREUTERS

<安倍政権が打ち出したコロナ危機への経済対策は、表面的な金額こそ立派だが、その中身をひもとくと問題が山積している>

政府は新型コロナウイルスの感染拡大に対応するため、総額117兆円の緊急経済対策を取りまとめた。だが、支援の実施方法や金額に関して多くの批判が寄せられている。率直に言って今回の対策は、直面している危機に十分な効果を発揮するとは思えない。

世論の批判を受けて安倍首相は、世帯を限定して30万円を給付するプランを撤回し、個人に対して一律10万円を支給する施策に変更した。広範囲な給付に切り替わったことは評価してよいが、課題は山積している。

安倍政権は4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急経済対策を閣議決定した。事業規模の総額は108兆円とGDPの2割を突破している。これはアメリカやドイツに匹敵する水準で、表面的な金額としては過去最大といってよい。だが、この施策には大きな問題があり、このまま実施した場合、十分な効果を発揮しない可能性が高い。

安倍首相は117兆円という金額について「世界最大級」と胸を張るが、これは事業規模の総額であって、実際に政府が財政支出する金額ではない。企業に対する納税や社会保険料の支払い猶予(約26兆円)は、あくまで一時的な猶予にすぎず、資金繰り支援に使われる財政投融資(約10兆円)についても、基本的には貸し付けなので返済が求められる。

さらに言えば、昨年12月に閣議決定した26兆円の経済対策のうち、まだ執行していない分(約20兆円)や、3月までにまとめた緊急経済対策の第1弾と第2弾の分(約2兆円)など、今回の支援策と無関係なものまで含まれている。

条件が厳しすぎた30万円給付プラン

政府は各支援項目の詳細を明らかにしていないが、「真水(まみず)」と呼ばれる政府が実際に支出する金額は18兆円程度、コロナ終息後に実施する旅行券配布などの施策を加えても28兆円程度と推定される。約47 兆円を真水とする政府の説明とは大きな乖離がある。

政府が撤回した30万円給付プランの最大の問題点は、給付条件をあまりにも厳しすぎたことである。基本的には住民税非課税水準に収入が落ち込まないと給付されない仕組みだが、中間層の世帯はほとんど支払い対象にならない。政府は1300万世帯が給付対象になると説明していたが、もしこのプランが実際に発動された場合、給付対象となる世帯はもっと少なかっただろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ニューメキシコ州共和党本部に放火、「ICE=KK

ビジネス

大和証G・かんぽ生命・三井物、オルタナティブ資産運

ワールド

ミャンマー地震、がれきから女性救出 72時間迫る中

ビジネス

アングル:第1四半期のマーケットは大波乱、トランプ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story