コラム

関電スキャンダルの本質、「原発経済圏」の闇を暴く

2019年12月12日(木)10時19分

福井県大飯郡高浜町にある関西電力の高浜原子力発電所(写真は2011年 ロイター/Issei Kato)

関西電力幹部が福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取っていた問題が発覚し、原子力発電への逆風が強まっている。一方、原発を抱える自治体からは、再稼働を強く求める声が出ている状況だ。

福島第一原発においてあれだけの事故が起こったにもかかわらず、自治体が強く再稼働を求めるのは、原発が極めて大きな経済圏を形成しており、地域経済がその枠組みに完全に組み込まれているからである。関電問題を逆から見れば、自治体側が手段を選ばず原発マネーをつなぎ留めている図式と映る。

原発の建設には1基当たり約4000億円(110万キロワット級)の資金が必要とされ、多くの建設工事が伴う。だが原発経済は建設資金だけにとどまらない。

多くの人は気付いていないが、私たちが支払う電気料金の中には、電源開発促進税という税金が含まれている。家庭が消費した電力1キロワット時当たり0.375円を電気料金に含めて徴収するというもので、税収の総額は3000億円以上にもなる。家族のいる世帯では月当たり500キロワット時程度の消費電力があるので、毎月の税額は200円近くになっているはずだ。

これは電力会社から送られてくる明細にも金額が記載されない「見えない税金」なので、今まで社会問題になったことはほとんどない。消費増税への反発などとは大きな違いがある。

しかもこの税収は、以前は一般会計ではなく特別会計という外部のチェックが入りにくい政府会計で処理されており、金額の大半が原発のある自治体への交付金や原発推進事業などに充てられてきた(現在は一旦は一般会計を通ることになっているが、査定されにくい予算であることに変わりはない)。

同じ場所で増設が続く訳

原発が建設される自治体には、新規の原発1基当たり1300億円以上の交付金が付与されるほか(周辺自治体含む)、固定資産税も総額で400億円に達する(稼働40年と仮定した場合の推定値)。だが、これらの交付金や固定資産税は、原発建設直前や稼働直後に大半が支払われ、その後は急激に金額が減少する。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story