コラム

高級ブランド帝国LVMHが、これほど巨大になれた理由

2019年11月22日(金)11時48分

彼がM&Aを本格化させたのは90年代に入ってからだが、このタイミングは世界経済の成長が加速するタイミングとほぼ一致している。特に近年はアジア市場の伸びが顕著となっており、2008年には全体の20%にすぎなかったアジア地域(日本を除く)の売上高比率は、2018年には30%近くまで上昇している。

一見すると、規模の拡大にそぐわない業種や業態でも、一定のしきい値を超えると、商品のコモディティ化が始まり、大規模なM&Aの対象になるということを高級ブランド業界の動きは示している。

もっともLVMHの拡大戦略は、アルノー氏の卓越した手腕に依存する部分が大きい。欧州はアメリカと異なり、企業のオーナーシップや利害関係が複雑で、アルノー氏の買収攻勢に少々不透明な面があったのも事実だ。同社にKENZOを売却した高田賢三氏は後に買収について、あまりフェアなやり方ではなかったという趣旨の発言をしている。

こうした経緯からLVMHには資本構成上の不備があったが、2017年のディオール社の完全子会社化によってようやく解消された。完全なフリーハンドを得たアルノー氏の最終目標は、かねてから買収を画策してきた独立系ブランドの大物、エルメスであることはほぼ間違いない。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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