コラム

知らない間に物価は着々と上がっている

2019年01月08日(火)14時00分

現在の日本のインフレは景気拡大に伴う物価上昇ではなく、消費者にはあまりメリットがない H86-iStock

<過去の日本のデータから、インフレが加速する境目となるしきい値は失業率2.5%。昨年末に発表された11月の完全失業率は、まさにこの値だ。2019年、消費者の生活に何が起こる...?>

日本ではこれまで、デフレが続いていると認識されてきた。だが水面下では物価上昇がジワジワと進んでおり、そろそろ誰の目にも明らかとなる水準に達しつつある。量的緩和策は意図的にインフレを起こそうという政策だったが、あまりうまくいっているとはいえない。景気が十分に回復していない状況で、物価上昇だけが進んだ場合、消費者の生活はさらに苦しくなるだろう。

メーカー各社がアイスの価格を一斉に引き上げ

ロッテや森永製菓など菓子メーカー各社が、2019年3月1日出荷分から、冷菓の価格を引き上げると発表した。ロッテのヒット商品である「雪見だいふく」130円が140円に、「爽 バニラ」は130円が140円になる。森永や江崎グリコも主力商品について同程度の値上げを実施する。

各社が相次いで値上げに踏み切ったのは、原材料価格の高騰が続き、利益の確保が難しくなったからである。日本経済は過去20年間、横ばいという状態が続いてきたが、諸外国の経済規模は1.5倍~から2倍に拡大しており、それに伴ってグローバルな物価も上昇が続いている。

食品メーカーは原材料の多くを海外からの輸入に頼っているので、海外の物価上昇はそのまま原材料価格の上昇につながる。これまで多くの企業が、価格を据え置く代わりに、内容量を減らすという、いわゆるステルス値上げを行い、名目上の価格を据え置いてきた。消費が弱い中で、名目上の価格を引き上げると販売数量の低下を招くリスクがあったからである。

だが、いくら名目価格を維持したところで、これが値上げであることに違いはない。今回の一斉値上げは、こうした誤魔化しが限界に来ており、いよいよ名目価格の引き上げが始まったことを象徴している。冷菓に続いて、他の製品についても、思い切った値上げを実施するところが増えてくる可能性は高いだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story