コラム

知らない間に物価は着々と上がっている

2019年01月08日(火)14時00分

クルマやマンションは、値下がりしたことなどない

国内がいくらデフレ傾向であっても、原材料価格の例からも分かるように、輸入が関係すると価格を据え置くことは難しくなる。クルマやマンションなども資材価格から大きな影響を受ける製品だが、どちらも価格が安くなったことは一度もなく、一貫して値上げが続いている。

クルマはモデルチェンジが頻繁に行われ、各種のオプションを付けて販売されるので、同一条件での価格推移を調べるのは容易ではないが、自動車メーカーの財務状況などから1台あたりの価格を推定することは可能である。トヨタ自動車における2018年3月期における平均販売価格(売上高を販売台数で割った単純平均)は327万円だが、本格的にデフレがスタートした22年前の平均価格は180万円だったので、デフレだったにもかかわらず1.8倍に値上がりしている。

マンションも同様で、資材価格や人件費の高騰から一貫して価格は上昇を続けている。

不動産経済研究所の調査によると、2018年上半期における新築マンション(首都圏)平均価格は5962万円だったが、2010年の価格は4716万円であった。住宅ローン金利の低下で、返済総額がそれほど増えていないことから、あまり意識されないのだが、物件価格そのものは8年間で1.3倍になっているというのが現実だ。

物価の状況を示す消費者物価指数の上昇率は鈍化していると指摘されているが、鈍化しているのはあくまで上昇率であって、物価そのものが下がっているわけではない。量的緩和策がスタートした2013年4月を基準にすると消費者物価指数(総合)そのものは5.7%上昇している。

ちなみに公共料金はずっと前から値上げが続いており、消費者の生活を圧迫している。価格が下がっているのは、一部の外食産業や小売店など限られた分野であり、実はジワジワと物価は上がっていると考えるべきなのだ。

景気が悪い中で物価だけが上がる?

マクロ経済的にも日本の物価はそろそろ転換点に差し掛かっている。物価動向を分析するツールとしてよく知られているのが、失業率と物価の関係を示したフィリップス曲線である。フィリップ曲線は横軸に失業率を、縦軸に物価上昇率をおいたグラフで、この傾きを見れば、失業率の変化が物価にどのような影響を与えるのか推測できる。

フィリップス曲線は、一般に右肩下がりの形状となるが、日本の場合は少し違っていて、ほぼL字型に近い形になっている。つまり失業率が下がっていくと、ある地点から急速にインフレが進むという図式である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story