コラム

厚生年金の適用拡大が意味すること

2018年09月19日(水)13時00分

しかも、深刻な人手不足からパート労働者の時給は上昇しており、企業は総人件費の上昇という問題に直面している。今回の適用範囲拡大に合わせて、従業員の昇給を抑制する動きが出てくる可能性についても十分に考えておく必要があるだろう。

日本では原則として解雇ができないため、企業の総人件費に対しては常に上昇圧力が加わる。このため、日本企業は1人当たりの賃金を抑制する傾向が強く、これが労働者の実質賃金を引き下げている。また年金制度への不安から、国民は財布の紐をなかなか緩めない。

国民の将来不安を取り除くためには、年金財政を好転させることが重要だが、そのためには厚生年金の適用範囲を拡大する必要があり、この動きはさらなる賃金抑制につながってしまう。今回の措置によって年金財政を多少好転させることができるかもしれないが、賃金が上がりにくい状況は当分、続くことになる。

※表現を一部修正しました(2018年9月21日14時15分)。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

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