コラム

動き始めた年金支給68歳引き上げ論 これから考えるべき人生設計とは

2018年05月01日(火)14時30分

写真はイメージです。 Electra-K-Vasileiadou-iStock

<近い将来、マクロ経済スライド制が再発動されるのはほぼ必至。表立っての説明はされていないものの、政府が目論む新しい年金のあり方は、これだ>

年金支給開始年齢を65歳から68歳に引き上げるプランが動き始めた。高齢者からの大きな抵抗が予想されるが、公的年金の財政状況を考えた場合、支給開始年齢の引き上げはほぼ不可避と考えた方がよい。これに加えてマクロ経済スライド制の発動による年金支給額の減額も予想される。言い尽くされていることだが、これからは年金に頼るのではなく、生涯労働を大前提に、人生設計を行う必要があるだろう。

すでに年金財政は火の車

財務大臣の諮問機関である財政制度審議会では、年金や医療の持続可能性について財政面から検討を行ってきたが、4月11日に行われた分科会では支給開始年齢の引き上げが議論の対象となった。

唐突にこの話が浮上したように見えるが、2013年に開催された政府の社会保障制度改革国民会議でも68歳引き上げが議論されており、政府関係者の間では事実上、既定路線となりつつある。

支給開始年齢を引き上げるのは、年金財政が厳しい状況に置かれているからである。

政府は、支給開始年齢を引き上げても平均余命までに受け取る年金の総額は変わらないとしている。受け取り開始時期が後になっても、年金をたくさんもらえるならよいと考える人もいるかもしれないが、現実は、うまくいかない可能性が高い。

現在、日本の公的年金は、年金受給者に対して毎年50兆円程度の年金を支払っている。だが現役世代から徴収できている保険料はわずか33兆円である。政府の一般会計からの負担(つまり税金による補填)が12兆円あるが、それでもまだ5兆円ほど足りない。不足部分は積立金の運用益などでカバーする図式となっている。

安倍政権は安全運用を基本としていた公的年金の運用方針を180度転換し、株式などのリスク資産に振り向ける決断を行った。その理由は、積立金を国債だけで運用していては、年金財政の赤字を穴埋めできないからである。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story