コラム

トランプ政権の敵対的通商政策で日本側が持ち出すべき材料とは?

2018年04月03日(火)13時15分

日本は中国と同列に… Yuri Gripas-REUTERS

<注目すべきは安全保障上の理由が絡んだ通商拡大法232条の発動で、これは単なる通商法の措置でないことを意味する。アメリカの友好国である韓国やEUは除外されたのに、日本が中国とともに対象になったワケ>

ドナルド・トランプ米大統領がとうとう敵対的な通商政策に乗り出した。日本は安全保障上の措置で中国と同列に扱われるなど、厳しい状況に直面している。

日本は海外との交渉において、具体的な材料を提示せず、自身の希望を一方的にお願いするだけというケースが多い。だが、こうした態度はグローバル社会では確実に不利益につながる。日本への影響を最小限にとどめるには具体的な交渉材料をはっきり提示していく必要があるだろう。

日本は中国と同列に扱われてしまった

トランプ政権は3月22日、中国による知的財産権の侵害などを理由に、通商法301条に基づく制裁措置の発動を決めた。

米国は中国から5065億ドル(約54兆円)の製品を輸入しており、米国の貿易赤字の大半が中国向である。まずは中国にターゲットを絞り、具体的な成果を確実にする戦略と考えられる。301条の対象となる製品は1,300品目に及ぶとされ、具体的な品目は4月上旬に公表される。

これはあくまでも交渉の土台なので、最終的にどのような形で交渉が進むのかは分からない。中国が大幅に譲歩すればすんなり解決するかもしれないし、逆に報復措置に出るようなら、貿易戦争の様相を呈してくるだろう。

しかしながら、日本にとって衝撃的だったのは301条の発動ではない。トランプ政権は同じタイミングで、通商拡大法232条に基づき、鉄鋼とアルミに対して高関税をかける措置を発表したが、このターゲットに日本が入ってしまったのである。

301条は、通商交渉で米国が突きつける有力なカードとして知られている。中高年以上の読者の方なら、日米自動車交渉や日米半導体交渉のニュースで、嫌というほど耳にしてきたはずだ。

しかし、鉄鋼とアルミに対して発動された通商拡大法232条は、安全保障を理由としたものであり、単なる通商上の措置ではない。しかも、この条項については、EUやカナダ、メキシコ、韓国など、友好国はすべて除外されており、対象となったのは日本だけだった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story